【セリエA現地コラム】「エポックメーキング」な5連覇達成。ユーベの大逆転劇は、キャプテンの一喝から始まった――

2016年04月29日 片野道郎

10節で4敗目を喫して、首位との差は11ポイントに。

4月24日のフィオレンティーナ戦に勝利し、スクデットをほぼ手中にしたユベントス。翌日、2位ナポリが敗れて5連覇が決まった。(C)Getty Images

 昨年10月28日に行なわれたセリエA10節、ユベントスは敵地でサッスオーロに0-1の敗北を喫した。これで早くもシーズン4敗目。勝点はわずか12で首位ローマから11ポイントも離され、降格ゾーンまではたった6ポイントの11位タイ。不振は深刻をきわめつつあった。

 一方、上位戦線ではローマ、フィオレンティーナ、ナポリ、インテルの4チームが2ポイント差に固まって熾烈な先頭争いを繰り広げていた。シーズンはまだ4分の1しか過ぎていないとはいえ、そこまでの10試合でローマとナポリに敗れ、インテルと引き分けているユベントスが、上位4チームすべてを蹴散らして首位に立つ日が来るなどということは、この時点では誰ひとり想像していなかっただろう。

 何よりもユベントスの戦いぶりは、前年までのそれとは比較にならないほど不安定なものだった。攻撃の中核を担ってきたカルロス・テベスは、「心のクラブ」であるボカでプレーするため、スクデット4連覇とチャンピオンズ・リーグ準優勝を置き土産に母国アルゼンチンに帰還。中盤では司令塔アンドレア・ピルロがMLSへ、攻守に八面六臂の活躍を見せたアルトゥーロ・ビダルがバイエルンに移籍して、チームは再構築の途上にあった。

 マッシミリアーノ・アッレグリ監督は、試合ごとにシステムとメンバーを入れ替えて試行錯誤を繰り返すばかりで、開幕から2か月が過ぎてもチームの基本形すら固まらない。期待の新戦力は、マリオ・マンジュキッチとパウロ・ディバラという両アタッカーがなかなかチームに馴染めず、中盤の支柱となるはずだったサミ・ケディラは故障がち、エルナネスは期待外れのパフォーマンスに終始するなど、貢献度はゼロに等しかった。

 マスコミでは、昨シーズンのスクデットはアントニオ・コンテ前監督の遺産、みずからのチームを構築する段になって能力不足を露呈した――と、アッレグリの手腕を疑問視する論調で監督交代への空気を煽ろうという流れが強まりつつあった。

 このサッスオーロ戦の後、TVカメラの前に出てきた主将ジャンルイジ・ブッフォンは、強い口調でこう語った。

「今日の前半は最低だった。開幕から2、3試合ならともかく、10試合も過ぎてこのパフォーマンスはありえない。ボールをつないでいい形をつくる場面がなかったわけじゃないけど、イーブンボールの競り合いでひとつも勝てないというのは、試合へのアプローチを完全に間違えたということだ」

「闘う気持ちのない者に、このビアンコネーロのシャツを着る資格はない。キャプテンとして恥ずかしいし、責任を感じている。俺たちは謙虚さを取り戻さなければならない。それができなければ、この船は難破してひどい様を晒すだろう。38歳にもなって、そんなのはごめんだ。ピッチ上で闘う姿勢を示さなければならない」

 公の場では自画自賛か自己弁護で通すのが当たり前で、人前で自らの非を認めることを好まず、自己批判は自分の(そして仲間の)顔を潰す振る舞いだという考え方が一般的なイタリアで、これだけストレートに自分たちを責めるような言葉を連ねるというのは、われわれ日本人が考える以上にショッキングなことだ。実際、ブッフォンのこのコメントがチームの内外にもたらした波紋は大きかった。

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