上意下達とは真逆の信頼関係を築く堀越。「日本一魅力的なチームで日本一を」。佐藤監督の夢想は実現に近づいている【選手権】

2024年01月10日 加部 究

学年を問わず意見交換が活発

準決勝では惜しくも近江に敗戦も、史上初の4強入りを叶えた堀越。写真:鈴木颯太朗

 選手権前に掲げた「過去最高の全国ベスト4」の目標に到達した堀越だが、2023年度の新チーム結成当初の佐藤実監督は「厳しいシーズン」を覚悟していた。

 堀越は2020年度に29年ぶりの全国高校選手権出場を果たすと、2年連続して東京都代表として選手権の舞台を経験した。しかし2023年度に高校3年生になる中学生たちが進路を選択する時点で知るのは、28年間の長いトンネルから抜け出せていない堀越で、しかもちょうどコロナ禍の最中だったこともあり「スカウティングも練習参加の要請もままならなかった」(佐藤監督)という。

 佐賀東を下して準決勝進出を決めた時に報道陣に囲まれた佐藤監督は、主将の中村健太、副主将の吉荒開仁、189センチのGK吉富柊人らについて、「よく(堀越を)選んでくれた。僕に騙されたのかな」と笑い飛ばしたが、逆に「彼らを脅かすような選手が少ない」と、3年生の層の薄さを危惧していた。

 実際、シーズン半ば過ぎまでの堀越は苦戦の連続だった。新人戦もインターハイ予選も途中で敗退し、T1リーグも中位以下に低迷する。選手たちの希望通りに4-3-3を軸に戦い続けたが、夏頃には「このままでは理想とするサッカーは間に合わない」と懸念し、佐藤監督と中村主将が膝を突き合わせて話し合い、改めて方向性の継続を確認していた。

 一方で現2年生以下の選手たちは、日野翔太(拓殖大・J1鳥栖と契約)や井上大聖(順天大)らを擁し、全国ベスト8と見事な復興を遂げた堀越を見て、強い憧れと高い志を抱いて入学している。ジュニア時代から都内では注目されてきた最上級生の吉荒が見ても「下級生は入学当初から本当に技術は高かった」と感じており、質の向上は明白だった。
 
 選手主体のボトムアップ方式で活動をしていく堀越では、学年を問わず意見交換が活発なので、中村健太という強烈なリーダーが牽引しても「個性派揃いの1~2年生をまとめていくのは大変だった」(佐藤監督)という。

 ただし、主体性を持つ選手たちは失敗も確実に栄養として吸い上げ成長していくので、そういう意味ではトップダウン型のチームに比べて、スロースタートは必然だった。ボトムアップ方式に切り替えた2012年以降の歴史を振り返っても、選手権東京都予選では5度決勝へ進み、あるいはリーグ戦終盤に本領を発揮するなど右肩上がりの角度を上げて卒業を迎えてきた。

 かつてセレッソ大阪でプレーし、堀越ではコーチとして支える蔵田茂樹が語る。

「指導者のトップダウンで育つのがビニール栽培の選手だとすれば、ボトムアップは自然栽培のイメージです。本人が自分の課題に気づき、その克服が成長のために必要だと思えば勝手にスイッチを入れる。そうなると今まで以上にチームのために頑張ろうとするから、一層長所が引き出されていくんです」

【厳選ショット】中村健太の鮮烈ゴラッソなどで堀越が史上初のベスト4進出!|選手権準々決勝 堀越2-1佐賀東

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