A代表初選出の中村敬斗、“陽の当たる場所”に戻るまでの軌跡「遠回りのように見えても、一番大事なモノを手に入れた」

2023年03月16日 飯間 健

孤独と向き合い、自らを否定しなかった

中村敬斗(なかむら・けいと)2000年7月28日生、千葉県出身。180センチ・73キロ。積極果敢なドリブルが魅力のアタッカー。17年U-17、19年U-20W杯出場歴もある。写真:徳原隆元

 ウルグアイ、コロンビアとの2連戦が組まれた3月シリーズで、森保一監督が2期目の指揮を執る日本代表が本格的に始動する。
【PHOTO】ウルグアイ・コロンビアとの親善試合に挑む日本代表招集メンバーを一挙紹介!
 3月15日、招集メンバーが発表され、ニューカマーが4人、選ばれた。そのうちの1人、中村敬斗について指揮官は次のように印象を述べた。

「オーストリアで今活躍しているのは、皆さんご存知かと思う。得点という結果と、左ウインガーとしてチーム内でも、ヨーロッパの舞台でも存在感を放っている選手。私は東京五輪世代のチームの監督をした時に、アンダー世代でも招集しているなかで、彼の成長も追って見てきたが、このプロという世界、代表という舞台でも戦える力をつけてきている選手かなと思っている。左サイドから得点に繋がるようなプレーを期待している」

 オーストリアのLASKリンツで2年目を迎えた中村は、今季ここまで公式戦24試合に出場し、14得点・7アシスト。充実のシーズンを送っている。

 その活躍が認められ、初のA代表選出。ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。だが、22歳アタッカーは信念を貫き、ようやく"陽の当たる場所"に戻ってきた。

 己の才能を信じ、欧州の地で逞しく生き延びた男の成長譚を振り返る。2021-22シーズンを終えたタイミングで、中村は何を語っていたか――。

※本稿は『サッカーダイジェスト』2022年7月14日号から転載。一部加筆修正あり。

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 中村敬斗はまっすぐな目で言葉を紡いだ。

「世間では"中村敬斗は消えた"と思われているかもしれないですね。現在もオーストリア・リーグで注目度も高くないかもしれない。それなら帰国すればと思われるかもしれない。でも……僕はこの選択は良かったと心から思っています。時間をかけて、遠回りのように見えても、一番大事なモノを手に入れたと考えているんです」

 ヨーロッパでのシーズンは3年目を終えた。最初の2クラブでは徐々に出番を失った。一度はカテゴリーをオーストリア2部まで落とした。それでも孤独と向き合った。自らを否定しなかった。

 そして21-22シーズンは、オーストリア1部のLASKでリーグ22試合・6得点・1アシスト、ヨーロッパカンファレンスリーグ5試合・3得点。「街を歩いていて一度も日本人を見たことがない」と笑う人口約20万人の都市リンツで、かつて脚光を浴びたストライカーは立ち続けている。

 ターニングポイントは2度あった。1度目は21年1月。ガンバ大阪から2クラブ目のレンタル移籍先になったベルギー1部のシント=トロイデンに所属していた時だった。

 リーグ開幕戦から2試合連続スタメン出場したあとは、出番を失った。途中出場した12月1日のムスクロン戦で1ゴールをマークしたあとに、わずかの間に出場機会を得たが、その後は監督交代の憂き目にも遭い、再びベンチ外が続いていた。

 不安な日々を過ごしながら様々な選択肢を模索していた際、保有権を持つG大阪から復帰を打診された。

「松波さん (正信/当時強化本部長)や首脳陣の方々とは何回も話し合いました。『ガンバに一度帰って、敬斗が行きたいならば、また海外もありなんじゃないか』と言ってくれたんです。その言葉は自分の心に温かく響きました。帰国も選択肢としてアリかな、と」
 

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