【磐田】他界した両親からの言葉が支えに… 魅惑のレフティ名波浩が指揮官としてJ1に帰ってくる!

2015年11月24日 寺野典子

「俺たちはまだ終わっていない。その気持ちがやっぱり昨シーズンとは違った」

磐田をJ1昇格に導いた名波監督。昨季は土壇場での失点で昇格を逃したが、今季は正反対の展開で昇格を勝ち取った(C) SOCCER DIGEST

 試合終了を告げる笛が鳴った瞬間、90分間たったひとり、立ち続けたテクニカルエリアで、指揮官は全身の力がフッと抜けたように両手を広げた。そしてベンチを振り返る。
 
「振り向いた瞬間に苦労をともにした選手やスタッフが集まってきて、非常に感動的な日だったなと思います」
 2015年J2リーグ。J1自動昇格の座を手にした磐田の名波浩監督は、その瞬間をそう振り返った。
 
 J1自動昇格を懸けた戦いは、最終節までもつれ込んだ。そして全日程を終えて、磐田と福岡が勝点82で並び、得失点差わずか3点で磐田が逃げ切った。
 
 最終節の大分戦。90分にパウリーニョのミドルシュートで同点に追いつかれ、その1分後に小林が決勝弾を決める劇的な幕切れは、昨年の昇格プレーオフ同様だ。しかし昨季との違いは、その劇的な幕切れをハッピーエンディングで迎えられたことだ。
 
「やっぱり(大分の)パウリーニョのあのシュートが入った時点で、『俺は持っていないな』と。昨シーズンも山岸のヘディングシュートもそうでしたけど。このスーパーゴールが最後のゲームで2発入ってしまうのは、1年経っても俺は持っていないなと試合後スタッフと話した」と名波監督が自嘲気味に笑う。
 
 2014年の昇格プレーオフでは、90+2分にセットプレーから山形GKの山岸に勝ち越し弾を許した。1-1で終えられれば、勝ち上がれたというのに、だ。
 
「失点後に、宮崎がゴール前からすぐにボールを拾った。そこから始まり、上田がサポートして、小林と森島がゴール前へ突っ込んでいく。俺たちはまだ終わっていない。その気持ちがやっぱり昨シーズンとは違った」と、指揮官は語る。彼が選手に伝えたいと願い、積み上げてきたものが形になった。
 
 決勝点を決めた小林もチームの変化について話した。
「(チームの成長が)この試合に凝縮されていましたね。俺は最後の1秒まで諦めないと決めていた。点を取られた瞬間に諦めた人間が、ピッチの中には一人もいなかったと俺は信じていました」

次ページ昇格レースのなか、限られたスタッフ以外に父親が他界した事実を知らせなかった。

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