エムバペが不満を持ったマドリーの「2つの失態」。パリSG残留騒動の舞台裏に迫る――。メッシとネイマールには屈辱的な任務が…

2022年05月24日 リカルド・セティオン

マドリーが提示してきた額の20%アップでの契約を約束

アル・ケライフィ会長(左)はいかにしてエムバペ(右)を引き留めたのか。(C)Getty Images

 レアル・マドリー行き確実と言われていたキリアン・エムバペがパリ・サンジェルマンと契約を更新し、世界一高給取りのフットボーラーとなった。

 しかし重要なのはそのことではない。彼の前に、レアル・マドリー、パリSG、そしてカタールという国家さえもが跪いたことだ。

 マドリーにとっては、契約はほぼ完了したのも同然だった。エムバペのマネージャーを務める彼の母に請われ、契約書をすでに印刷もしており、あとはそこにサインするだけだった。

 エムバペは去年の8月くらいからずっとパリSGに不満を持っていた。そして、ずっとマドリーに移籍したいという願いを抱いていた。マドリー側もそのことを知っているから、12月にはより大きなオファーをし、3月末にはそれに肖像権収入の60%をエムバペに与えるとの条件を加える(他の選手は50%)。これはジネディーヌ・ジダンらガラクティコス(銀河系軍団)時代の選手たちにさえ提示しなかった特別待遇だ。

 一方、パリSGもエムバペがチームから出たがっており、マドリーに気持ちが移っているのは重々承知だった。しかし、引き留めを一度も諦めることはなかった。

 パリSGには金がある。レアルが5億ユーロ出すと言えば、5億3000万、10億ユーロ出せと言えば10億5000万を出すことがきる。実際、パリSGのナセル・アル・ケライフィ会長は、マドリーが提示してきた額の20%アップで契約しようと以前からエムバペ側に伝えてあった。
 
 パリSGのバックはカタールである。今年の11月にワールドカップを控えた彼らは、大会と顔となるエムバペを何が何でも手放したくない。どうしたら彼の決心を翻意できるか、王族たちが集まって会議を開かれていた。

 実はこの決断にはフランス政府も関与している。エマニュエル・マクロン大統領がエムバペの家族と話をし、彼のパリ残留を促しているのだ。フランスとしてはW杯中、代表の顔となる選手が、スペインではなくフランスでプレーしていてもらいたいからだ。

 しかし、最終的にエムバペの気持ちを動かしたのは、金額ではない。パリSGは彼にマドリーには絶対できないことを約束した。それが"彼こそがチームのスターでチームの顔、チームの未来である"ということだ。

 はっきりとそう書かれているわけではないが、彼がパリSGと新たに交わした契約には「エムバペはチームのテクニカル・プロジェクトに意見をすることができる」という条項が盛り込まれているという。

 つまりエムバペはチームの経営方針に意見を言える。どの選手を放出し、誰を獲得するか、監督を誰にするか、試合のユニホームの色さえも変えられる力を持つ。23歳の選手一人に、そんな力を持たせることは、マドリーにはできない。

 これで、リオネル・メッシもネイマールも彼の下にあるということになる。それなのに、チームは彼らに「エムバペが残留するように説得してくれ」と言われていた。たしかにエムバペを敵に回すよりは、味方にしておいた方が得策だ。他に方法はない。しかし、これは二人のスターにとっては屈辱的なことだった。

【PHOTOギャラリー】日本代表戦を彩る美女サポーターたちを一挙紹介

次ページエムバペを翻意させたマドリーの大きなミスとジダンの言葉

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事