連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】「映画のようだった」川崎戦 湘南はなぜ、面白い試合ができるのか

2015年08月24日 熊崎敬

一つひとつのプレーにエネルギーがあった。

曺監督も自画自賛したナイスゲームで川崎を下した湘南。アリソンの決勝点には、チームプレーの精神も凝縮。 (C) SOCCER DIGEST

 川崎を2-1の逆転で退けた湘南の曺監督は、この試合を「映画のようだった」と評した。
 
「最初の笛から最後の笛まで一つひとつのプレーにエネルギーがあって、映画を見ているようなシーンがたくさんあった。本当にスリリングな、とてもいいゲームだったと思う」
 
 私も同感だ。とてもいいものを見させてもらったと思う。
 
 この試合ではいくつもいいプレーが飛び出したが、その中でも強く印象に残ったのがアリソンが決めた2点目の崩しである。
 
 中盤で敵のパスをカットした湘南は手数をかけず、縦へ縦へとパスをつないで敵の背後を取っていき、右サイドから永木が果敢に仕掛ける。永木は内へ内へと切れ込み、シュートを恐れた敵は大外から一気に駆け上がる古林をフリーにせざるをえなくなった。
 
 永木は目の前の敵を完全に引きつけ、「あとは任せたよ」というかのような丁寧なパスを出す。これを古林が余裕を持って中央に折り返し、フリーのアリソンがヘッドを決めた。
 
 これはコパ・アメリカで何度も目にした、チリ代表の崩しを彷彿とさせた。チリもサイドからの仕掛けが得意で、サイドから仕掛けると、大外から追い越し車線のクルマのようにトップスピードで味方が駆け上がる。
 
 そして、これがチリのいいところなのだが、ボール保持者は簡単には大外にはパスを出さない。シュートを撃つぞ、ラストパスを出すぞと匂わせることで目の前の敵を巻き込み、絶妙なタイミングで大外にパスを出す。
 
 ちなみに湘南の2点目の場面では、古林が「中に行け、中に行け」と永木に叫びながら大外を駆け上がっていたという。
 
 ボール保持者が危険を冒して、味方に優位な状況を創り出す。味方もまた、仲間の思いやりに応える。それはチームプレーの精神が凝縮されたゴールでもあった。

次ページ「なくてもいいから面白くなきゃいけない」

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事