【消えた逸材】賭け事やドラッグで歯車が狂い…エバートンでクラブ史上最年少デビューを飾った有望株の波乱万丈

2021年12月17日 連載・コラム

16歳191日でピッチに立ち、史上最年少デビュー記録を更新

エバートンのアカデミーで育ったバクスターは、クラブの史上最年少デビュー記録を更新したが、少しずつ歯車が狂い始め……。(C)Getty Images

Jose BAXTER
ジョゼ・バクスター(FW/イングランド国籍)
■生年月日/1992年2月7日
■身長・体重/179センチ・74キロ


 ローラーコースターのようなキャリア――。

 ジョセ・バクスターは引退を発表したインスタグラムの投稿で、自身のフットボール人生をそう表現した。2021年8月、29歳で終止符を打った現役生活は、まさに波乱万丈だった。

 才能には、もちろん恵まれていた。地元の名門エバートンのアカデミーに加入したのは6歳のとき。確かなスキルと決定力を備えたアタッカーとして伸びやかに成長し、U-14の国内大会で得点王に輝くと、『ナイキ』の支援を受けることが決まった。
 
 強いパーソナリティーを持っていた。プロとして成功することを信じて疑わず、進路を案じる学校の先生にもそう断言していた。それだけの覚悟があったのだ。

 13歳のとき、ビジャレアルをホームに迎えたチャンピオンズ・リーグの予選でボールボーイを務めた。初めて間近で体感するトップレベルのフットボールに圧倒されながらも、「ここが目指すべき場所、到達すべきレベルなのか」と腹をくくった。

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 トレーニングに明け暮れ、15歳でトップチームの練習に呼ばれた。16歳の夏、プレシーズンの遠征メンバーに加わった。そして、その2008-09シーズン開幕戦のブラックバーン戦でついにプロのピッチに立った。16歳191日でのデビューはエバートンの史上最年少記録であり、プレミアリーグ史上2番目の記録だった(ともに当時)。

 歯車が、狂いはじめた。カウンシルエステートと呼ばれる、低所得者向けの公営住宅で育ったティーンエージャーは、劇的な環境の変化についていけなかった。「バブル(隔離された環境)の中にいて、外の世界がまったく分からなかった」と本人も振り返ったように、プロフットボールという一般社会とはかけ離れた特殊な世界で、一夜にして手にしてしまった富と名声に蝕まれていった。

 最初は、チームメイトとのちょっとした賭け事だった。誘われるままにポーカーを覚え、のめり込んでいった。賭け金はいつしか1万ポンド(約150万円)を超える額へとエスカレートしていた。試合に向かうチームバスの中でも勝負はやめられなかったという。
 

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