【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十六「相手に応じた準備」

2015年07月10日 小宮良之

変幻に戦えなければ、日本が世界の上位に進む道は断たれる。

FIFAランキングをひとつの物差しと考えれば、50位の日本はぎりぎり「中堅国」に引っかかる程度。自分次第で戦うだけではなく、相手に応じてプレースタイルも変化させる必要がある。写真:SOCCER DIGEST

 フットボールは記録を競い合うスポーツではない。
 
 前提として相手があるもので、そこでの勝敗をゴールという形で争う。すなわち、戦いのマネジメントとは「敵を知り、己を知る」ことが基本となる。その点、自分たちの戦いのスタイルを追求していようとも、相手の特長や強弱や状態に応じ、戦い方を変化させる作業を無視できない。敵の弱点を突き、長所を出させず、同時に自分たちの弱点を隠し、長所を出す、という戦略の柔軟さが要となる。
 
 そのマネジメントに立脚すると、日本代表が目指すべき戦い方も見えてくる。
 
 敵の強さを測るひとつの物差しとして、FIFAランキングがある。これは正当な評価としては眉唾なところはあるが、基準にはなるだろう。各国の強さは、大枠で5つのグループに分類できる。
 
 1~10位は常勝の称号がふさわしい「超強豪国」、11~25位は自分たちのスタイルに持ち込めば有利な「強豪国」、26~55位は敵にひと泡吹かす力のある伏兵「中堅国」、56~100位は実力を秘めるが出せずにいる「潜在国」、101~209位は未だ戦力的に乏しい「途上国」といったところか。
 
 日本はFIFAランク50位で、ぎりぎり中堅国に引っかかる。言い換えれば、自分次第で戦うだけではなく、相手に応じてプレースタイルも変化させる必要がある。例えば、身長の低いベトナムやタジキスタンが相手なら、単純な高さは有効なカードになるだろう。一方、北欧の国を相手に高さで勝負を挑むのは、焼け石に水となる公算が高い。
 
 ワールドカップ2次予選、最終予選、ワールドカップ本大会グループリーグの第1シードから第4シード、そして決勝トーナメントと、日本はどれだけ戦い方を変えられるか、が問われている。試しに当てはめてみると、150位のシンガポール、75位のウズベキスタン、57位のナイジェリア、11位のチリ、2位のドイツ……。やはり変幻に戦えなければ、日本が世界の上位に進む道は断たれる。
 
 ブラジル・ワールドカップ、アルベルト・ザッケローニ監督は好チームを作って挑んだ。アジアではほぼ無敵のポゼッションサッカーを確立。敵ゴールに近いゾーンでボールを回し、好機を作り続け、"攻撃こそ最大の防御なり"を貫いた。しかし本大会ではやり方を見抜かれ、底の浅さを露呈した。
 
 例えばコートジボワール戦、エンスト寸前の戦いで先制した幸運を手放していた。後半、コートジボワールは嵩に懸かって攻めてきたが、最終ラインの前で城壁となれる守備に強い選手は不在。ザッケローニの手札は「長谷部に代えて遠藤」だった。

次ページ154位の相手にしくじった試合を反省できなければ…。

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