どの映像を見せれば良いのか?現役レフェリーが語るテクノロジーの進化とVAR導入【審判員インタビュー|第2回・村上伸次】

2021年11月23日 サッカーダイジェストWeb編集部

様々なテクノロジーの導入で苦労したものとは?

JFAのプロフェッショナルレフェリー(PR)で最年長の村上主審は、数々のテクノロジー導入を経験してきた。写真:塚本凜平(サッカーダイジェスト写真部)

「審判員」。サッカーの試合で不可欠ながらも、役割や実情はあまり知られていない。例えば、「審判員」と法を裁く「裁判官」を同等に語るなど、本質の違いを見かけることもあれば、「審判員にはペナルティがない」という誤った認識を持っている人も少なくはない。

 罰するために競技規則を適用しているわけではなく、良い試合を作るために競技規則を適用していく。それが審判員だ。

 そんな審判員のインタビューを、『サッカーダイジェスト』と『週刊審判批評』(株式会社ダブルインフィニティ)が前編と後編に分け、隔月で連載していく。第2回は日本サッカー協会(JFA)と契約するプロのレフェリー(PR)である村上伸次氏にインタビューを行なった。

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――村上さんは2004年からJリーグ担当審判員になりましたが、審判員を取り巻く環境にはどのような変化がありますか?

「一番変わったのはテクノロジーの導入です。私が入った時くらいにシグナルビープ(編集部・注/副審や第四の審判員がボタンを押すと主審の腕に付いている装置に振動が伝わる)が使われ始めて、2014年にはコミュニケーションシステム(審判団が着けているインカム)、2016年には追加副審(ゴール横の審判)が限定的にスタートされました。そして、今季からJリーグでVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が本格導入されました。

 そう考えると、この5年は目まぐるしく状況が変わっています。そういったテクノロジーに対して、頭や身体を馴染ませていくのは大変な作業でした」

――どのテクノロジーが入ってきた時が一番アジャストに苦労しましたか?

「コミュニケーションシステムですね。片耳で審判団の情報を入れて、もう片耳では選手と会話をするというのは、聖徳太子と同じじゃないですか(笑)。左右の耳から全く違う情報が入ってくることの整理に苦労しました。

 例えば、副審とコミュニケーションをとっている時に、選手がコミュニケーションをとりに来ます。でも、副審と会話しているので、選手には上の空のように見えてしまいます。『レフェリー、俺が言っていること聞いてくれているのかな?』という印象を持たれるのはベターではありません。

 そうならないように、まず選手と話す時は、副審に『ちょっと話すのをやめて』とか、逆に選手に『今副審とコミュニケーション取っているから、そのあとで聞くからもうちょっと待って』と対応するように整理しました。審判団のコミュニケーション、選手とのコミュニケーション、両方を大切にすることを常に心がけています」
 

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