【浦和│ステージ無敗優勝の舞台裏】重みと価値ある17試合目の「1勝」

2015年06月28日 塚越 始(サッカーダイジェスト)

新神戸から帰る新幹線の中で、指揮官は気持ちを切り替えた。

新潟戦後、サポーターに第1ステージ優勝を報告するとともに、“年間王者”になることを誓った。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 6月20日の午後8時過ぎ、東京に向かう新幹線のぞみ号を待つ新神戸駅のホームに、浦和のスタッフと選手はいた。
 
 そこでは旅行や帰省を終えた多くの人たちとともに、第1ステージ優勝を果たした日に、お目当ての選手に思い切って話しかけて、笑顔の記念すべきツーショットの撮影に成功するサポーターの姿もあった。
 
 そのなかで、誰よりも気さくに記念撮影に応じていたのが、ペトロヴィッチ監督だ。「ミシャ(監督の愛称)スマイル」を浮かべて、親子連れやカップルなど、歓喜の瞬間を神戸のスタジアムでともに迎えた"レッズファミリー"と握手をかわし、健闘を称え合っていた。
 
 そして列車が到着する。赤い歓喜の輪もほどけて、それぞれが乗る車両に散らばる。電車に乗り込んだペトロヴィッチ監督はシートに腰を下ろし、ふっと人心地をつく。やがて車窓から見える夜景が次々に流れ出す。もうその頃には、早くも勝負師の鋭い目を取り戻していた。
 
 さて、1週間後の17節・新潟戦をどのように戦うべきか? 指揮官はこの時点で、その準備に頭を切り替えていたという。
 
 ステージ優勝が決まったとはいえ、神戸戦は1-1のドローであり勝てなかった。しかも新潟戦は、左ウイングバックの宇賀神が出場停止である。そもそも、新潟は17位や18位といったJ2降格圏に沈んでいるようなチームではない。最近も名古屋と湘南に連勝し、勢いを取り戻しつつある。明日(神戸戦の翌日)には湘南との練習試合が組まれており、そこで3-4-2-1のシステムで戦う新潟戦に向けた、いくつかのテストもできる――。
 
 加えて、一抹の不安を抱いていたのが、選手たちのメンタル面だった。ペトロヴィッチ監督は新潟戦前日、次のようなことを言っていた。
 
「いろいろな方が第1ステージ優勝を果たした選手たちのことを称賛し、選手たちは雑誌やTVのインタビューにも登場していた。その直後に、すぐ本来のあるべきノーマルな状態に戻るのは決して簡単なことではない」
 
 第1ステージ優勝は嬉しいことだが、指揮官の頭の中には不安が尽きずにいた。それだけに、この新潟戦は、今後を左右する重要な一戦になると感じていたのだ。
 
 ただ、そんな指揮官の緊張感は、しっかりと選手たちにも伝播していた。
 
「今日からが新たなスタートだ!」
 
 第1ステージの最終戦は、締めくくりであるとともに、再出発の一戦である。選手たちはそう全員で確認し合って臨んだという。
 
 ムードメーカー的存在の槙野は、変わらず高い向上心を持ったチーム内の雰囲気を感じ取っていた。

次ページ容赦なく襲い掛かる「バイエルン・ミュンヘン流」で追加点を狙いに行く。

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