【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十四「世界を動かす力」

2015年06月25日 小宮良之

フットボーラーの力量を測るには、数字に出ない側面を重んじるべき。

アスリート的な能力はそれほどでもないが、ゲームを作り、周りを輝かせられるシャビ。その異能ぶりは際立ち、数字で計り切れない力を持つ。(C)Getty Images

 昨今、日本サッカー界では数字が踊っている。
 
「体脂肪率12パーセント以上は代表に選ばない」
 
 日本代表監督であるヴァイッド・ハリルホジッチは、厳格な指令を出したという。指揮官は実証的性格の持ち主で、論理の裏付けとなる数字を好むのだろう。
 
 トップレベルのサッカー選手は、平均体脂肪率10パーセント前半。それだけに実は目新しい基準でもないのだが、数字にするとサッカーの素人であっても分かりやすい。同時に多くのマスコミもこの流れを歓迎する。数字データは報道しやすいからだ。
 
「20パーセントはフィジカルを向上できる」
 
 イラク戦後にハリルホジッチは高々と宣言した。こうした数字は運動能力と符合するもので、アスリート能力への礼賛につながる。
 
 なるほど、相手をねじ伏せられるアスリートは宝石のように輝く。例えば、レアル・マドリーのクリスチアーノ・ロナウドは比類なき運動能力によって、2、3人のDFを凌駕してしまう。全身の筋肉を躍動させるドリブルシュートは圧巻。素人が見ても、彼の肉体的雄偉さには見とれる。事実、彼はチームにとって欠かせない選手であり、FIFAバロンドール賞を受賞するなど名声をほしいままにしている。
 
 しかしフットボールという競技において、アスリート能力は一面でしかない。少なくとも、データを盲信するべきにあらず。本質的にフットボーラーの力量を測るには、数字に出ない側面を重んじるべきだ。
 
 例えばバルサを退団することになったシャビは、C・ロナウドのようにひとりで敵の密集したディフェンスを突っ切って決定的仕事を幾度もやってのける選手ではない。運動競技者としての数値で比べたら、ポルトガル人スターには太刀打ちできないだろう。C・ロナウドが3人を相手に突破できるとして、おそらくシャビはひとりに立ち向かうのも精一杯だ。
 
 しかしシャビは、周りの選手を輝かせられる。良い状態でパスを受け、身体の向きを含めたポジションの良い選手を見つけ、そこに精度の高いパスを流し込み、味方にパスコースを作り続け、攻撃を活性化させる。
 
 時に試合を落ち着かせるパスでポゼッションによって守備力を高め、時に鋭利な刃物のようなラストパスを送る。一本のパスで、どんなプレーを選択するべきか、というメッセージを伝えてテンポを生み出す。
 
 その異能を数字に換算するのは、このコラムの論法で言えば逆説的だが――。
 
 C・ロナウドがひとりで3人分だとして、シャビは味方10人の力をひとりに付き1.5人分以上に増やせる。つまり1チームにしたら、5人分増える計算になるのだ。

次ページ現代フットボールにおいては、常にふたつの可能性を踏まえる必要がある。

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