【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十二「ボランチの本質」

2015年06月12日 小宮良之

ポジションを留守にせず、攻守のバランスを取るべき。

チャンピオンズ・リーグ決勝で合いまみえたピルロとシャビ。両者はプレーを作り出すタイプのボランチと言える。 (C)Getty Images

 ボランチ。
 
 この用語を知っていると、「サッカーを日常的に見ている」と判別しうる言葉のひとつかもしれない。
 
 言うまでもないが、もちろん用語を知らなくても「サッカーを知っている人」はいる。そもそも、ボランチはポルトガル語のハンドルに由来し、チームの動きを操るという意味だが、世界共通語ではない。英語ではセンターハーフ、ディフェンシブハーフ、スペイン語ではメディオ、ピボーテなどが相当するが、これらは類語に過ぎないのだ。
 
 とは言え、曖昧ながらもボランチというポジションに求められる仕事は、各国で共通点がある。
 
「チームのバランスを取る」
 
 手段は違っても、その目的は違わない。
 
 ピッチの中央に陣取るボランチは、テンポ良くパスを裁いて攻撃のリズムを生み出すこともあれば、相手の攻撃の芽を鋭い出足で摘み、スペースを消し、守備を安定させることもある。攻撃であれ、守備であれ、その支柱的な役割となる。
 
 先頃のチャンピオンズ・リーグ決勝戦で同じピッチに立ったシャビ・エルナンデス(バルセロナ)、アンドレア・ピルロ(ユベントス)は中盤でプレーを創り出すタイプだ。ブレーズ・マテュイディ(パリSG)、ポール・ポグバ(ユベントス)、ラミレス(チェルシー)らはオールコートで動き回って自軍に活力を与え、ナイジェル・デ・ヨング(ACミラン)のように最終ラインの防波堤となる選手もいる。
 
 それぞれ仕事の内容は異なるが、攻撃と守備におけるバランスを取っているのは同じだろう。
「ボランチはポジションを留守にするな!」
 
 これは欧州でも南米でも、しばしば聞かれる訓戒だ。「常に味方が求める場所にポジションを取り、サポートし、カバーする。不用意には動かず、いるべき場所を留守にするな」という教えである。
 
 攻撃の時、ボランチは両サイド、前線の選手、バックラインとの連係を心がけ、常にパスコースを作り、選択肢を広げる。守備の際には、陣形が綻んでいないかを注意し、例えば右SBが駆け上がった場合は、右ボランチがカバーする。ポジションは流動的な部分もあるが、基本的には中央でバランサーとしてチームの舵を取る。もし軽率に中央のスペースを敵に渡した場合、味方は一気に危機に陥るからだ。
 
 そのため、ボランチには欠かせない素養がある。
 
 気が利くこと。
 
 簡単そうで、この能力に恵まれている選手は希有であり、持っていてもしくじることもある。

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