左SH起用に一発回答の旗手怜央。フランス戦で示した金メダル獲得のキーマンになりえる理由【東京五輪】

2021年07月29日 河治良幸

五輪代表のマルチロールとしてさらに評価を高める

フランス戦は左サイドハーフで起用された旗手。攻守両面で持ち味を発揮し、4-0の完勝に貢献した。写真:金子拓弥 (サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

[東京五輪グループステージ第3節]U-24日本4-0U-24フランス/7月28日/横浜国際総合競技場

 4-0。絵に描いたような快勝というのは、五輪のような大舞台、しかも強豪相手になかなか無いが、フランス戦はまさにその表現がぴったりの結果と内容だった。

 もちろん、これまでの試合と同じく、全員の意識が噛み合った前からの守備や、ボールを持ったら積極的にゴールを狙う姿勢、それに伴うビジョンの共有、さらには頼もしいオーバーエイジの存在など、ベーシックなところだけでも勝因は多く挙げられる。

 しかし、フランスも徐々にチームとして良くなってきており、決して与しやすい相手ではなかった。他会場でメキシコが南アフリカに勝利することを想定すれば、フランスとしては2点差以上で勝たなければ準々決勝に勝ち上がれないため、攻撃的に来ることは間違いなかった。だが日本が早い時間帯に先制できれば、心理面も含めて大きなアドバンテージを握ることができる試合だった。

 そうした状況でこの試合のキーマンになったのは、左サイドハーフで起用された旗手怜央だ。もともと同世代で大学ナンバーワンのストライカーと評価され、森保一監督も最初の頃は上田綺世とともにFWとして招集し、1トップで起用することも多かった。

 そこから2列目の候補にもなっていたが、所属クラブの川崎フロンターレで左サイドバックに新境地を見出すと、五輪代表のマルチロールとしてさらに評価を高めた。

 今回も基本的には中山雄太と左サイドバックのポジションを争う構図が予想され、南アフリカ戦ではスタメンの中山と代わり、後半途中から左サイドバックとして1-0の試合をクローズする役割を果たした。ただ、この時も本人は前めのポジションで使われることを想定して準備していたようだ。

 2試合目のメキシコ戦では、ディエゴ・ライネスという左利きのサイドアタッカーをほぼマンツーマンで封じる仕事を中山が担い、2-1の勝利に貢献した。その2試合目で出場機会のなかった旗手が、フランス戦では左サイドハーフとして先発起用された戦術的な理由は、大きく2つあったと考えられる。

 1つは、フランスの攻撃がかなり右サイドから作られるということが関係している。4-3-3の右ウイングにはA代表の経験も豊富なオーバーエイジのフロリアン・トヴァンがおり、右サイドバックには積極的なオーバーラップとクロスを得意とするクレマン・ミシュランが構える。
 
 精力的なディフェンスを持ち味とする旗手だが、守備のスペシャリストでないことは本人も認めており、メキシコ戦に続き中山が"トヴァン封じ"の役割を担うことは理にかなっている。その一方でミシュランの攻め上がりに対しては、運動量と馬力があり、ポジションの取り合いでも主導権を取れる旗手の特長を生かしやすい。

 守備のパワーという意味では相馬勇紀も負けていないが、特に序盤はサイドハーフが自陣で対応するシーンも多く、旗手の対応が効いていた。

 もう1つは攻撃面の特長だ。相馬や三笘薫のような本格派のサイドアタッカーではないが、オフ・ザ・ボールで相手の嫌がるスペースに潜り込むビジョンとセンスは今回のチームの中でも卓越したものがある。

 フランスの右サイドは攻撃に強みがある反面、守備ではトヴァンが前残りになる傾向が強く、ミシュランも人を的確に掴む守備をあまり得意としていない。そうしたスカウティングも森保監督や選手に入っていたはずだ。
 

次ページ前半の2得点に関与し、三好のゴールもアシスト

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