【連載】識者同士のプレミア放談「結局のところ、ヴェンゲルはヴェンゲルのままだった――シーズン総括|戦術編」

2015年05月29日 田邊雅之

ヴェンゲル体制の弊害はもっと本質的なものに関わってくる。

ボールを相手に渡しながら、アウェーのシティ戦で快勝したアーセナル。ヴェンゲル監督の変節かと思われたが。 (C) Getty Images

田邊雅之:長いプレミアのシーズンもようやく終わったわけですが、放談をもうちょっと続けさせてください。2014-15シーズンを戦術面から総括するというのが、今回のお題です。
 
山中忍:プレミアの担当は損な役回りが多いですよね。こっちは大陸側と違って、冬休みもないじゃないですか(笑)。
 
田邊:それは僕たちが背負ってしまった業だということで諦めて、本題に入りましょう(笑)。今シーズン、戦術的に気になったチームや注目した試合というと、どのあたりになりますか?
 
山中:個人的に印象に残っているのは、アーセナルがアウェーでマンチェスター・シティに勝った1月の試合ですね(2-0)。なんといっても、あのヴェンゲルさんがポゼッションを捨てて見事に勝ってみせた。
 
 サッカーの内容云々じゃなくて、ついに結果を出すことを優先し始めたのかなと思って、かなり驚きました。
 
田邊:アーセナルのボール支配率は、たしか35パーセントくらいでしたよね。僕もあの試合は強烈に覚えています。でもシーズンを通してみると、結局のところ、ヴェンゲルさんはヴェンゲルさんのままだった。
 
山中:一時期は2位に浮上しましたが、チェルシーとシティには及びませんでしたし。チェルシーの主将であるテリーは、よりストレートに「小手先のサッカーじゃ優勝は無理」とまで言い切っている。
 
田邊:日本でもアーセナルに関しては、ヴェンゲルさんのサッカー哲学の限界なるものを指摘する記事が、メディアにも何度か掲載されました。
 
 でもちょっとストレートな言い方をすると、その手のヴェンゲル批判は毎シーズンの恒例行事というか。
 
山中:論点的に目新しいものはあまりないと?
 
田邊:そう。むしろヴェンゲル体制の弊害というのは、もっと本質的な問題に関わってくる。このテーマについては、いずれどこかの媒体で書くつもりですが、アーセナル以外で戦術論的に気になったチームや監督はあります?
 
山中:最終節が散々だったんですが、リバプールですかね。もちろんロジャースに関しては、戦術やシステムをころころ変え過ぎたという批判もある。
 
 とはいえチーム事情が酷いにもかかわらず、まがりなりにも6位でシーズンを終えられたのは、要所要所でロジャースが、スパッと方針を切り替えたことに負うところが大きいのかなと。
 
 現に3バックに変更してスターリングを1トップで使った頃は、かなりイケイケになったじゃないですか?
 
田邊:あの頃の勢いを維持できれば、CL出場枠を確保するのも夢ではなかったかもしれないですね。
 
山中:「ジェラードさよならツアー」がもっと盛り上がったでしょうし。
 
田邊:ロジャースに「さよなら説」が出ることもなかった(苦笑)。
 
 ただ僕も山中さんのように、ロジャースに対しては結構、同情的な見方をしていて。今シーズンの彼は「意あって力足らず」の典型だったような気がします。やりたいことはわかるし、然るべき手も打っているんだけど……。
 
山中:いかんせん、チームが発展途上過ぎる。だから個人的には、ロジャースの解任に反対なんですよ。可能性としては低いと思いますけど、これで監督を代えたりしたら、またゼロからチームを作り直す形になってしまう。
 
田邊:タブロイドがチームカラーに引っ掛けて「レッドアラート」だとか、「ユー・ウィル・ウォーク・アローン(君は一人でチームを去っていく)」といったような見出しを打つのは目に見えている(笑)。
 
山中:キャッチフレーズのネタには事欠きませんから(笑)。

次ページたどり着いたのが「戦術=フェライニの活用」という“オチ”

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事