コロナ禍で開幕した“異例”のEURO。盛り上がりは散発的、メディアセンターは閑散…開催地の人々が期待するのは?【現地ルポ】

2021年06月16日 アレックス・チスミッチ

「やっとサッカーが戻ってきた、という感じ」

制限を設けての有観客で開催されているEURO。それでもスタジアムは盛り上がりを見せているが…。(C)Getty Images

 EURO2020開幕を迎えたローマの空気は、祝祭一色の盛り上がりとは行かなかった。イタリア対トルコの開幕戦を翌日に控えた木曜日の夜、まだコロナウイルスによる外出制限の影響下にあるローマの街は人影もまばらだった。しかし開幕当日の金曜日になるとやっと、ローマの中心街を横断するコルソ通りに設置されたファンゾーンに、多くの人々が集まってきた。

「一番素晴らしいのは、イタリア人もトルコ人も他の国の人々も、まったく区別なくひとつになって開幕を喜んでいることだね。普通の日常が戻ってくることを望む気持ち、それに一歩近づいたことを喜ぶ気持ちでみんながひとつになっている」
 
 そう語ってくれたイタリア人のブルーノは、1年前から開幕戦のチケットを持っていたにもかかわらず、UEFAがパンデミック対応として設定したスタジアムの入場者制限に引っかかって、生観戦の断念を強いられたという。
 
 もうひとりのイタリア人サポーター、レナートは、仕事のために移住したアムステルダムから、この開幕戦のためにローマに帰ってきたのだという。

「ローマはこの暗かった1年半を早く忘れたいという空気に満ちている。うちの両親も、開幕が近づくにつれて街の空気が明るくなってきた、家々のバルコニーにイタリア国旗のトリコロールがはためくのを見ると心が踊る、と言っているよ。街のあちこちでいろんなサポーターが楽しそうに交じり合っているのを見ていると何とも言えない気持ちになるね。やっとサッカーが戻ってきた、という感じ」

【画像】トルコ対イタリアのスタメン&フォーメーションは?

 開幕戦のチケットの約60%はイタリア国外、とりわけドイツを中心とする中部ヨーロッパで販売された。イタリアとトルコからの移民が数多く暮らしている地域だ。ここローマの街で楽しそうに交流している彼らの多くが、ドイツ語で会話している理由もそこにある。

 トルコからの入国者に対して14日間の自己隔離を義務づけるイタリアの制限措置は、トルコ国内のサポーターの大部分から、この開幕戦の応援に駆けつける機会を奪うことになった。しかし、他のヨーロッパ諸国からやって来たトルコ・サポーターたちも、トルコ代表を思う気持ちと熱量ではまったく変わらないことは明らかだった。最も活動的なファンたちは、試合会場であるスタディオ・オリンピコの周辺に集まって、発煙筒を焚きながら声の限りにチャントを繰り返して大いに盛り上がっていたほどだ。

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