これでいいのか? 吉田麻也が見据えていたアジアの未来。協会は現場の声を議論の俎上に載せるべき

2021年05月29日 加部 究

「こうして二ケタ得点が続けば、自ずとクウェッションが出てくるのでは、と期待してやっています」

アジア全体の底上げを提唱する吉田。2次予選での連続二ケタ得点にも疑問の声を上げた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 日本代表は全員が欧州組だったので、長いシーズンを終えた選手たちは本来ならオフに入るはずだった。もちろん所属クラブで出番に恵まれず試合に飢えていた選手もいただろうが、大半はたっぷりと疲労を溜め込んでいたに違いない。しかも対戦相手はミャンマーである。勝利を見込めるゴールを積み重ねたら、あとはボールを保持して時間の経過を待つことも出来た。陸上競技や水泳で予選から全力を出し切る優勝候補はいないし、選手にそれを指示するコーチもいない。もちろん世界大会でも予選から決勝まで数日間程度で終えてしまう陸上や水泳と、最終予選まで長丁場になるサッカーのワールドカップ予選は異なるわけだが、それでも世界中の強豪国が格差のある試合に臨む場合は、ベストメンバーでのフルファイトは滅多に課さない。

 しかし日本代表は、90分間最後まで全力疾走を貫いた。もちろんベンチからは「緩めるな」と声が飛んでいたそうだが、それだけでチーム全体のモチベーションが維持できるなら、森保一監督は神通力の持ち主になる。

 根幹には日本代表のステータス向上がある。現状でほぼレギュラーが確約された選手たちでも危機感を持ち、自分の力を証明しようとプライドに賭けて戦っている。選手たちが代表の重みを受け止め、それがしっかりと継承されている。そういう意味で、日本代表で戦う選手たちのメンタルコンディションはすこぶる良好で、独特の文化として定着しつつある。
 
 一方で非常に納得できたのが、試合後に吉田麻也が発した言葉だった。
「ミャンマーもモンゴルも90分間諦めることなく、成長しようという姿勢が見えた。しかし本当にアジアが欧州や南米に抗っていくには、大陸全体で考えていくべき。アジアの代表が本大会で勝てなければ、出場枠を減らされる可能性もある。こうして二ケタ得点が続けば、自ずとクウェッションが出てくるのでは、と期待してやっています」

 森保監督は「戦っているのはミャンマーだけど、個々の選手たちはもっと高い目標を描いて」と語っていた。しかしいくら高いレベルを想定していても、実際に対戦相手が変われば「想定」は絵に描いた餅になる。だが吉田は、もっと先の未来を見据えていた。二ケタゴールが連続する現実をアピールし、レベルダウンを導くアジアの現状を変えることを意識して戦っていた。それならベストメンバーにも10ゴールにも意味が出てくる。
 

次ページ「連続二ケタゴール」は、「これでいいのか?」と訴えかけるには十分な議題対象になった

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