イングランドの“救世主”によって2日で瓦解したESL構想。スペインのファンはなぜ沈黙したのか?【現地発】

2021年05月05日 エル・パイス紙

政治家も持ち前の功名心を発揮して勝ち馬に乗った

ELS構想に対し、イングランドではファンが怒りの声をあげたが…。 (C) Getty Images

 何事につけて動きが遅いサッカーにおいて今回は例外だった。欧州スーパーリーグ(ESL)を巡る騒動は、1週間の間に目まぐるしい動きを見せた。

 対決の構図はレアル・マドリーを筆頭とするビッグクラブ対UEFA(欧州サッカー連盟)とFIFA(国際サッカー連盟)という2つの巨大な組織だ。どちらに肩入れするか決めるのは簡単ではなかったが、一連の騒動が視点を変えるきっかけになったのは確かだ。

「サッカー界を救うためのリーグだ」。こう大見得を切ってESLはわれわれの前に姿を現した。しかし実のところは、サポーター、重厚な文化、伝統の力といったサッカーにおいて不可欠な要素を軽視し、声明が発表された48時間後にプロジェクトは瓦解した。

 なぜなら幸運にも、善良な意思が働いたからだ。その主役となったのが、ほかでもないサポーターだ。サッカーにおいて唯一の支配者である彼らが、自ら救世主役を買って出たのだ。
 
 しかし、ここで明確にしておかなければならないことがある。ESL創設の動きを阻止したのは、イングランドのサポーターに限定されることだ。翻ってスペインのサポーターもラ・リーガの関係者も、"聴衆"という立場で事態の推移を見守った。サッカー愛よりもクラブ愛を優先させた形だ。

 反応が鈍かったのはマドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーという創設メンバーに加わった3クラブのサポーターも同様だ。もちろん納得できない部分もあったはずだが、上層部の決定に反対することは裏切り行為と解釈し、忠誠心を重んじてだんまりを決め込んだ。

 両者を分けたのはサッカーへの向き合い方だ。イングランドにおいてサッカーは神聖なもので、サポーターも自分たちが主役という強烈な自負を持っている。「サッカーの母国」と呼ばれるのはれっきとした理由があるわけだ。

 オピニオンリーダー、選手、監督が当事者意識を前面に出して参加クラブに対し異を唱え、サポーターはデモに立ち上がり、政治家も持ち前の功名心を発揮して勝ち馬に乗った。サッカーは誰にも開かれたものであり、一部の限られた人間のものではない。それぞれの立場からそう主張し続けた。
 

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