連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】自ら切り崩す力も見せた金沢。謙虚な“サメ”は口を開けて待っているだけではない

2015年05月09日 熊崎敬

力量が試される40分間で同点に追いつく。

必勝パターンである先行逃げ切りのシナリオが崩れたものの、一人ひとりがリスクを負って攻め込み、チャ・ヨンファンの同点弾を生み出した。(C)J.LEAGUE PHOTOS

「目が離せない試合」とよく言うが、首位・金沢と岡山のゲームの前半はその反対、波風がほとんど立たなかった。
 
 動きが少なかったのは、岡山が快進撃を見せる昇格組の金沢に敬意を払ったからだ。
 
 岡山はボールを支配しながらも最終ラインで横パスをつなぎ、無理に縦に仕掛けようとしなかった。それは金沢が自陣に4-4-2の防御ラインを敷き、虎視眈々と逆襲の機会を窺っていたからだ。
 
 その逆襲の怖さを、岡山の長澤監督は「サメが口を開けて待っている」と評した。迂闊に飛び込むと痛い目に遭う。岡山が慎重な姿勢を崩さなかったため、前半は睨み合いのような形で過ぎていった。
 
 だが後半、ゲームは文字どおり、目が離せない展開となる。
 
 ゴールへの圧力を強めた岡山が50分、片山の強烈なミドルを決めるとゲームは乱戦模様となった。
 
 唐突に決まった片山のゴールは、金沢に重くのしかかると思われた。というのも彼らは、先制した7試合に全勝することで勝点を稼いできたからだ。先行逃げ切りが金沢の必勝パターン。そのシナリオが崩れた。
 
 金沢は追う立場となり、口を開けて待っているだけではいけなくなった。今度は自分たちから仕掛けなければならない。それは力量が試される40分間と言ってもよかった。
 
 金沢が攻めれば、岡山がカウンターで切り返す。激しい撃ち合いとなった後半、金沢の森下監督は積極的な交代策に打って出た。正確なクロスを誇る右SBの辻尾を中盤に上げ、FWに金子、田中とフレッシュな戦力を次々と投入。この用兵が功を奏し、次第に岡山を押し込んでいく。
 
 自分たちはリアクションだけのチームではない。後半の金沢は、そのことを証明した。
 
 一人ひとりがリスクを負ってボールを持ち出し、岡山陣内に攻め込む。その攻勢のなかで76分、CKからチャ・ヨンファンの同点弾が生まれた。

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