モドリッチやイニエスタ…“サッカーを知っている選手”とは?【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年05月02日 小宮良之

「わざと人を集め、味方をフリーに」

「サッカーを知っている選手」の筆頭格が、モドリッチ(左)とイニエスタだ。写真:Getty Images、塚本凜平(サッカーダイジェスト写真部)

 日本ではこの表現は正しく使われないことが多いが、スペイン語圏では頻繁に用いられる。スペイン語では同じ知るという動詞でも、SaberとConocerという二つの知る、がある。ここでの正解はSaberだ。

 Saberは英語のCanに近いだろうか。術を知っていて、それを行える。体得し、会得している状態で、使える、操れるにも通じる。例えば語学が喋れる時にも使える動詞である。一方でConocerは、知識や情報として入っていることを意味している。本質を知っているかどうかは問われない。だから、「彼と知り合い?」という意味の知っている、はこちらを使用する。術として用いられるかどうか、は少しも関係ないのだ。

 これは言語、文化の違いだが、二つは混同されがちである。それによって、誤解が生まれやすい。知っているはずが、知っていない、という現象が起こる。

 サッカーの世界では、Saberがほとんどすべてと言える。ハーフスペースやポジショナルプレーという用語を知っていても、それは知識や情報止まり。Saberを語るのは難しい。しかし、サッカーを知っている選手の名前を挙げるのは、そこまで難しくはないだろう。

 例えば、ルカ・モドリッチはサッカーを知っている選手の代表格だろう。どんなポジション、ゾーンにいても、やるべきことを心得ている。状況に応じ、次々に選択肢を変えられるし、生み出せる。

 先日のチャンピオンズ・リーグ(ラウンド・オブ16第2レグ)で、レアル・マドリーのダブルボランチの一角でプレーしたモドリッチは、アタランタを相手に完璧なプレーを見せている。中盤でボールを引き出し、リズムを作ったかと思うと、最終ラインまで落ちて、ビルドアップの先手となって鋭い縦パスを送った。パス一本、立ち位置ひとつで、巧みに試合を動かしていた。

 圧巻は前半33分だ。

 前線からのプレッシングに参加し、GKのボールを奪う。その瞬間、側にいたカリム・ベンゼマにパスするのも選択肢だったが、相手のマークを受けていただけに、パスをすれば詰まっていただろう。そこで自らボールを縦に持ち込み、エリアに入って相手を引き付けた後、フリーになったベンゼマに折り返し、先制点を演出したのである。

【動画】アタランタ戦のモドリッチのアシストシーンはこちら
 モドリッチは、いつ、どのように、どこでプレーするべきかを心得ている。それを連続的に分かっているのだ。つまり、サッカーを知っている選手と言える。

 同じような選手としては、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタの名前が挙げられるだろう。イニエスタは、まさにサッカーを知っている選手の権化。わざと人を集め、味方をフリーにできるし、そのための技術が誰よりも高い。

 サッカーを知っている選手。

 ゴールが取れるか、ハードワークできるか、フィジカルが強いか。それはあまり関係ない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
 

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