メッシとグアルディオラ――勝負を決めた才能の輝きと諦観の笑み 6年の時を経た師弟の物語

2015年05月08日 豊福晋

グアルディオラの発想とふたりだけのミーティングが…

恩師の目の前で才能を輝かせたメッシ。いまは敵将でありながら、その成長ぶりをグアルディオラも嬉しく思っているようだった。 (C)REUTERS/AFLO

 ピッチの反対側、メッシがボアテングをあっさりとかわす光景を、グアルディオラはベンチの前に立って眺めていた。
 
 右足でふわりと浮かしたボールは、ノイアーが伸ばした手を越えてネットを揺らす。うつむいてベンチへ戻る指揮官。アップしていたバルサの選手たちが、喜ぶルイス・エンリケを目指して、その前を走り抜けていった。
 
 メッシを止めることは不可能だと考えていた。
 
「あの才能は止められない。できるのはプレー機会を減らすことだけ」
 
 試合前日にグアルディオラはそう語っている。メッシを誰よりもよく知る監督だ。2008年のバルサ監督就任以降、その手でメッシを育て上げてきた。どんな試合でも先発フル出場させ、交代させることすらなかった。
 
「バルサが勝てているのは私の功績ではない。メッシがいるからだ」
 
 自身が称賛された時も、とにかくエースの存在を強調した。
 
 パスワークはグアルディオラの哲学だ。ポゼッションも愛している。しかし、最後に勝たせてくれるのは、メッシの個人能力でしかない――。彼には確固たる考えがあった。色とりどりのアイデアが散りばめられたその頭脳の片隅には、いつだってメッシがいた。
 
 こんなことがあった。09年の初夏の夜、自宅にいたメッシの携帯が鳴った。
 
「レオ、すぐに私のオフィスに来るんだ」
 
 驚いたメッシは、すぐに練習場へと向かった。
 
 そこでグアルディオラは教え子にある提案をする。それはポジション変更だった。右サイドから中央へ――。ふたりはボードを見ながら長い時間話し合った。メッシが初めて「偽9番」としてプレーしたクラシコ前夜のことである。
 
 やがてメッシの得点は倍増した。グアルディオラの発想と、ふたりだけのミーティングがなければ、メッシは現在の地位にはいないだろう。

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