【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の十七「名将の形はひとつにあらず」

2015年05月07日 小宮良之

名将と呼ばれる人物に共通する特長は、強固なリーダーシップ。

グアルディオラとともに“見栄えの良い”指揮官の代表に当たるモウリーニョ。独特のパフォーマンスは、記者にとって格好のネタとなる。(C) Getty Images

 名将の典型とは、いかなるべきものか?
 
 チェルシーを指揮するジョゼ・モウリーニョのように、試合前から自らの漲る覇気をチーム全体に伝え、自身を磁場のようにし、選手を手足のように動かすのはそのひとつだろう。アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネもこのタイプか。もしくはジョゼップ・グアルディオラ(バイエルン監督)のように、作戦家として頭脳の冴えを用い、確立した戦い方で常に先手を取り、試合中には神懸かった交代策で状況を好転させる。
 
 どちらも名将の形だし、いずれが優れていると言うことはない。共通しているのは、選手を動かすリーダーシップだろう。
 
 もっとも、「最高のリーダーシップ」を語るのは簡単ではない。モウリーニョも、グアルディオラも、その統率力や決断力が際立つが、こうした"見栄えの良い"リーダーが最高なのか、という点は議論が必要だろう。
 
 例えば、ドイツ人監督のユップ・ハインケスはふたりほどの名声はないが、実績や指導力は匹敵、あるいは上回る。レアル・マドリーでチャンピオンズ・リーグ優勝、バイエルンで三度のブンデスリーガ優勝、チャンピオンズ・リーグ優勝など数多のタイトルを手にした。テネリフェ、アスレティック・ビルバオ、シャルケ、レバークーゼンなど数々のクラブで、ローター・マテウスやフレン・ゲレーロなど優秀な人材も輩出している。
 
 間違いなく名将のひとりなのだが、好々爺という印象も拭えない。
 
「リーダーとして地味。スター選手を率いられない」
 
 レアル・マドリー時代には欧州王者に輝きながら、フロレンティーノ・ペレス会長によってチームを追われた。まったくもって、理不尽な扱いである。
 
 ハインケスはチームマネジメントにおいて、スターのエゴを許さなかった。その結果、マドリーでは一部有力選手の反感を買い、それに同調したフロントとメディアから見放された。ドイツ人監督は物腰が柔らかく、物理的着想で筋道を立てて物事を行なう。それは、マスコミにとって"記事を書きにくい"と人気がない。下卑た話、指を突き立ててタッチラインを疾走するモウリーニョのような指揮官のほうがネタになりやすいのだ。

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