【喜熨斗勝史の欧州戦記|第1回】日本人がセルビア代表コーチ就任。ヨーロッパで必要となる“覚悟”とは何か

2021年04月22日 サッカーダイジェスト編集部

セルビア代表監督就任が決定的となった“ミスター”から…

セルビア代表合宿初日で選手に紹介される喜熨斗コーチ。緊張感がみなぎっていた。

「来るか?」

 ドラガン・ストイコビッチ監督からの1本の連絡で日本人コーチの大チャレンジが始まった。

 3月3日、ストイコビッチ氏のセルビア代表監督就任に伴い、右腕としてコンディショニングコーチに就任したのは喜熨斗勝史。"ピクシー"とは名古屋でも共闘し、2010年のリーグ優勝に貢献した名コーチだ。

 そんな喜熨斗氏がヨーロッパのトップレベルで感じたすべてを明かす新連載「喜熨斗勝史の欧州戦記」が「サッカーダイジェストweb」でスタート。記念すべき第1回は、セルビア代表コーチ就任の舞台裏、ヨーロッパで必要となる"覚悟"について語ってくれた。
 
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 観客のいないマラカナ(セルビア代表のホームスタジアム)で聞いたセルビア国歌「正義の神」を一生忘れないだろう。ここから始まる戦いを前に、全身を包み込んでいたのは喜びや高揚じゃない感情。そう、ひと言で表すならば「覚悟」でした。3月25日、アイルランド代表戦。2022年のカタール・ワールドカップに向けた欧州予選の第1節で、私はセルビア代表のコーチングスタッフとして新しいチャレンジに踏み出しました。
 
 日本人では初のワールドカップ出場経験がある欧州国のコーチ就任。導いてくれたのは、名古屋や広州富力(中国)でともに戦ってきたストイコビッチ監督でした。20年1月に広州富力をともに退団。その後、私は日本に帰国しましたが、ミスター(ストイコビッチ監督)とは連絡を取り合っていました。

 そして今年2月末。セルビア代表監督就任が決定的となったミスターから「来るか?」と連絡があり、ふたつ返事で「行きます!」と快諾させてもらいました。やりたいからと言ってできる仕事じゃない。細かい条件なんかは聞かずに、3月6日には日本を発っていました。イスタンブール経由でベオグラード空港に降り立つと、待っていたのはなんとミスター。でも1年3か月ぶりの再会をゆっくり懐かしむ時間はありませんでした。

 欧州選手権出場を逃したセルビア代表の次なる照準は2大会連続となるワールドカップ出場。そこに向けた代表合宿は22日からスタート。セルビアサッカー協会が、日本でいうJヴィレッジのようなサッカー専用施設内にある一室を住居として用意してくれ、私はそこでまず代表候補選手の名前と顔、所属クラブやポジション、プレースタイルを把握する作業に取りかかりました。

 30人ほどのリストを作って、映像を見ながら頭に叩き込む日々。でも……、いざ会ってみると映像とは印象が違う選手もいて、最初は戸惑いました。もちろん、今は問題ないですけどね。あとは言葉や食べ物、文化、国歌の勉強も。国歌も歌えなければ、その意味も知らないのでは失礼になりますから。まだ流暢には歌えないけど、口ずさむくらいはできるように練習しました。

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