【安永聡太郎】「それほど甘くない」久保建英はなぜ出番が与えられないのか? エメリ・ビジャレアルの高度な機能性を徹底分析!

2020年12月31日 木之下潤

基本戦術をセットアップするのがうまいエメリ監督

リーガではなかなか出番に恵まれていない久保。(C)Mutsu FOTOGRAFIA

 今回は、久保建英選手が所属するビジャレアルについて解説していきたいと思う。

 今シーズンから監督にウナイ・エメリが就任し、好調をキープしている。彼は選手との間に細かい戦術的なルールを設けていくタイプではない。大枠として「ボールを奪ったら素早くゴールに仕掛ける」というコンセプトがあり、守備を中心にチーム作りをしていくのが得意なタイプ。今シーズンも時間を追うごとに「守備をどう整えていくのか」をきちんと見つけ、うまく構築してきた。

 それは軸となる選手が定まり、その選手たちを支えるプレーヤーたちが決まってきたから。エメリはもともとセットアップに長けた戦術家という印象。シーズン当初は「右ウイングをチュクエゼにするか、久保にするか」みたいな話題が取り上げられたけど、すでにそれすらも話題にならなくなった。

 理由は、チームとして「中盤のパレホとトップ下のジェラール・モレーノの二枚看板を生かすセットアップの仕方」として選手の組み合わせを考えることが監督の中で決まってきたから。この取材は15節のオサスナ戦後に行なっているけど、ここまでのシーズンで試行錯誤するなか、「彼ら二人が生きる組み合わせを考える」ことが基本的な方向性としてある。

 これをエメリは見つけた。例えば、今シーズンから移籍してきたパレホが中盤に据わることによってビジャレアルの戦い方が大きく変わったわけではないけど、劇的に進化した選手もいる。それは左CBのパウ・トーレス。少し前のデータになるけど、彼とパレホともう1人のCBアルビオルのここまでの総パス本数がリーガで上位を占めていた。
 
 つまり、後方からのゲーム構築がスムーズに行なわれている証拠。特にパウ・トーレスはパレホを意識しながらボールを前に持ち出し、同サイドである左サイドの選手=FWを見てプレーすることができている。さらに対角線上にいる逆サイドの選手に利き足の左足からスパッとパスを通すようになった。もちろん昨シーズンから見られたシーンだけど、4-3-3の右のインテリオールや右ウイングに左の後方からパスが狙えるのはチーム戦術的にかなり大きな意味を持つ。

 それは左サイド側でパウ・トーレスがボールを持ち出せば守備はスライドし、逆サイドに隙が生まれるわけだから、そこに一発でパスを通すことができれば相手守備を揺さぶりチャンスを作ることができる。今シーズンはその間にパレホというボールも人も引き付ける「引力」がいるから彼を上手に使いながらパウ・トーレス自身もフリーでボールを受け直したり、彼がフリーランニングによって空けてくれたスペースにドリブルで侵入したりとアイデアの幅が広がった。

 だから、今のビジャレアルはパレホとジェラール・モレーノの縦関係にパウ・トーレスというもう1人の軸が加わったから厚みを増した。

 さらに、パレホの脇をケガで今季絶望となってしまったけど、イボーラとマヌ・トリゲロスがしっかりと固めていた。この中盤のセットアップが定まったことで、シーズン序盤のようにチュクウェゼも絶対的な存在ではなくなってきているし、実際に相手によってはエメリも簡単に彼を外したりもしている。中盤から前線については相手によってより良いセットアップを選択して選手を選ぶようになった。

 軸を見つける時期、軸をどう生かすかというセットアップを模索する時期を乗り越えて段階を踏んでチーム作りができるエメリの手腕は本当にすごい。彼の中では自分の戦術と照らし合わせて、個々の選手に対して「〇、△、×」をもう明確につけていると思う。

 それで言うと「久保は△の真ん中から上くらいにいるのかな」というのが僕の印象だ。
 

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