【安永聡太郎】リーガ制覇も狙える! 注目の“ダークホース”セビージャの「補強」と「戦術」の特長を深掘り

2020年12月19日 木之下潤

セビージャを支えるのは敏腕SDの存在

昨シーズンにEL制覇とリーガ4位を達成したセビージャ。今シーズンもその好調を維持している。(C) Getty Images

 今シーズンのリーガも、約3分の1を消化している。マドリー、バルサの二強はなかなか調子が上がらず、久々にアトレティコが首位に立っていて混戦の様相を呈している。

 この連載で、そのアトレティコやレアル・ソシエダといった注目チームの基本的な戦術を解説してきたけど、今回は「セビージャ」について話をしていきたい。

 このクラブを語る上で、やはり選手強化で手腕を振るうモンチSDの存在は外せない。彼抜きでセビージャを語ることはできない。モンチが獲得してくる選手の質は非常に高い。その獲得方法の特徴として、大金は支払えないけど、それなりの給料で長期契約を結ぶことが挙げられる。

 資金的にトップクラブには及ばないけど、選手を信頼して長い契約をすることで安心できる環境を与える。たとえば、28歳なのに4~5年の契約を結んだりする。他のクラブだと1年とか2年とかの短期契約が多いから、選手の立場からすると即結果を出さないといけない環境にさらされる。

 ただセビージャのように契約が4年くらいあると、選手にとってはリーガに馴染む時間、チームに馴染む時間を少し余裕をもって設ける心の余裕ができる。だから、こういった契約の仕方はモンチの手腕として長けた部分だと思う。

 チームは昨シーズンからロペテギが監督になった。スペイン代表では良い結果を出しながら、ワールドカップ直前でマドリーに引き抜かれて本番を戦うことなく代表監督としての仕事は終わった。

 そして、マドリーでもスタート時の戦術はとてもおもしろかった。しかし、あのクラブは選手たちを戦術で納得させることも大事だけど、やっぱりカリスマ性が重要な部分もあって、ロッカールームの選手たちをコントロールできれば戦術は個性を生かすもので、超一流が集まっているから結果が出てしまう。

 選手たちがある程度の範囲は解決してしまうようなチームだから、細やかな要求もするロペテギはハマらなかった。もちろん彼の責任だけでなく、クリスチアーノ・ロナウドがいなくなった大変なシーズンだったこともある。ずっとチームの4割近くの得点を叩き出していた選手を急に失ったわけだから、それを補う必要があった。最初の頃はチームにゴール前の自由を与えるところがうまくいっていたけど、徐々に歯車がかみ合わなくなった。

 自由って難しいよね。規則性がなくなって、全体の動きが重くなって、リズムとタイミングがあわなくなって「ロペテギは選手をマネジメントできない」的なことを言われるようになった。
 
 モンチは一度ローマに出て行ったけど、セビージャに戻ってきたときに「ロペテギの仕事ぶりにピンときたのか」、彼に声をかけた。当時は賛否で言うと否がとても多かった。だけど、ロペテギはアンダー世代に指導していた選手やモンチが連れてきた選手をうまく形にしていった。

 基本システムは4-3-3なんだけど、選手をうまくハメて、使いこなしながら結果を出した。試合を見ていても「役割分担が上手だな」と思う。昨シーズンも最初の頃はチームがあまり機能しなかった。それは1トップのルーク・デヨングがハマらなかったから。

 彼もオランダでは結果を残したけど、アラサーのタイミングで新天地を求めてセビージャにやってきて苦労した。昨シーズンは期待されたわりに数字として散々な結果だったけど、少しずつ機能している兆しはある。

 改めてモンチの見る目、補強の仕方はすごい!

 セビージャというチームに興味があるのも確かだけど、SD的な目線でサッカーを見るのも一つの楽しみ方。日本サッカーがモンチを学ぶのは非常に大きなものかな、と。ぜひ日本に来て、一度講習を開いてほしいよ。

 選手のどこを見ているか。
 どんなネットワークを張っているのか。

 良い選手と自チームにハマる選手は違う。良い選手だけど、チームにハマらないケースをどう判断しているのか。そして、そのとき、監督とのコミュニケーションの取り方と考え方はとても重要になる。このクラブは財政的にスペインでは豊かなほうであっても、トップ・トップではない。ヨーロッパリーグ(EL)で戦ったマンチェスター・ユナイテッドなどと比べても随分劣る。他と選手の取り合いをしたら勝てる環境ではない。トップ・トップと争わず、その中でどうやってオファーを出しているのかを知りたいよね。

 知っている限りでは、声をかけるタイミングは一般的に若いか、30歳目前で他のオファーだったら1、2年契約になるような選手。そういうところに位置するプレーヤーに長期契約をオファーする。選手の安定を保証するところで勝負している。

 実際に、この選手獲得方法が現在のセビージャの選手層を作り出しているのは間違いない。スーパーな選手はいないけど、チームにとって必要な選手、必要な能力を見極め、きちんとはめ込んでいる。モンチは2シーズンほどクラブを離れてローマで仕事していたけど、昨シーズンから戻ってきてELを優勝し、チャンピオンズリーグ(CL)出場権も勝ち取った。

次ページ「日本ではあのサイズのウインガーはまず生まれない」と評したのは?

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事