『キャプテン翼』のようなサッカーを――去りゆく指揮官が熱く語った南葛SC“関東リーグ”昇格の舞台裏【後編】

2020年12月19日 伊藤 亮

「1年間の中でも“南葛SCというクラブがどうあるべきか”という命題を自分の中で最も考えさせられた試合」

関東社会人リーグ2部昇格を決めた南葛SC。大きな一歩を踏み出した。写真提供:南葛SC

 島岡健太・南葛SC監督に2020年シーズンを振り返ってもらうインタビュー第2回は、関東リーグ2部昇格をかけた関東社会人サッカー大会を総括する。リーグ戦の反省をいかに活かしたのか。そして1年の集大成であり、クラブの願いであった関東リーグ昇格をかけた一戦では何を考えていたのか。
 
 今だからこそ語れる心の内。そこには、今年に限らず未来のクラブ像を見据えた監督ならではの視点があった。
 
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 関東社会人サッカー大会は負けたら終わりのノックアウト方式だ。しかも1回戦と準々決勝、準決勝と決勝はそれぞれ土日の連戦になる。リーグ戦とはまた違う過酷なトーナメントだが、南葛SCは1回戦の品川CC横浜(神奈川2位)を4-1、準々決勝の与野蹴魂会(開催地/埼玉)を5-1で下し、準決勝へと進んだ。
 
 南葛SCは2年前にも関東社会人サッカー大会へ出場し、準々決勝で涙をのんでいる。この時、連戦による疲労や独特の緊張感が影響した感は否めなかった。さらに今大会でいえば1回戦、準々決勝となった会場の人工芝が滑り、試合中に足を取られる選手が続出した。そんな外的要素がありつつも、南葛SCは大差で勝ち進んだ。これは、「外的要素に気を取られず、自分たちのサッカー=技術に立ち返る」という、シーズン中のFC N.との一戦から得た教訓を見事に体得した証だろう。
 
 そして迎えた準決勝。この試合が、島岡健太監督の考える「今シーズンのポイントとなった2試合」のもう1試合である。
 
「この試合は、1年間の中でも"南葛SCというクラブがどうあるべきか"という命題を自分の中で最も考えさせられた試合です」
 
 勝てば関東リーグ昇格が決まる。まさに、1年間の集大成となる大一番だ。相手は大学生チームのTIU(埼玉1位)。試合は前半、押し気味に進める中、終了間際に佐々木竜太のゴールで欲しかった先制点を奪う。後半開始直後にも追加点を奪い2-0とリードを広げた。
 
 まさに理想的な展開で時間は進む。そして残り10分を切った時に島岡監督が考えていたこととは――。「結果が出た後だから言えることなんですけど」という前置きをして、語ってくれた。
 
「戦術やシステムの変更を用いて、いわゆる"ベンチの策"でチームを勝たせるのは監督の力として必要なものだというのは分かっています。でも今の僕は、その策を持っていないんです。だから南葛SCの象徴である『キャプテン翼』に助けられてきた自分もいるんですが。あの場面、CFに代えて大きなCBを入れて守備を固めたらしのぎ切れたかもしれない。でもそれでいいのか、と。面白くないよな、と」
 
『キャプテン翼』に登場するチームの"リアル版"である南葛SC。自身、幼い頃から慣れ親しみ、サッカーの楽しさを教えてくれた作品だ。その後、選手を引退し指導者となり、名古屋グランパス時代に風間八宏監督のもとで技術の大切さを教えられた。そして縁あって南葛SCの監督となった際、サッカーの楽しみと技術、そして『キャプテン翼』がリンクした。島岡監督が発する「ワクワクするサッカー」や「ボールはトモダチ」というメッセージは、南葛SCで己のサッカー哲学の全てがリンクした喜びの現われでもあった。
 
「準決勝の残り10分から、ずっと自分の中で問答してました。このクラブが将来世界的なクラブになっていくなら、『キャプテン翼』のようなサッカーをすべきなんじゃないか。『キャプテン翼』に登場する選手ならベンチから言われなくても、例えばCFがCBに下がったり、自発的に相手のキーマンをマークしたりするんじゃないだろうか。そんな問答をしていて時間が過ぎていくうちに同点に追いつかれてしまったんです」
 
 最後の猛攻を仕掛けるTIUは残り5分から意地の2点を挙げ同点に追いつく。理想的な展開から一転、南葛SCは最悪の流れで延長戦に臨むことになった。

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