【識者コラム】災いは福に転じたか――奥深い能力の一端を示した新監督の辣腕ぶり

2015年04月01日 加部 究

ブラジルで日本が犯したミスをウズベキスタンが再現した結果…。

後半は低い位置でブロックを構えた守備を指示し、速攻からのゴールラッシュを引き出した。ハリルホジッチ監督の采配が見事に的中したと言える。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 80分、全員が前がかりに出て3点目を奪われたウズベキスタンは、9か月前の日本代表と瓜二つだったのかもしれない。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、敢えてブラジル・ワールドカップのコロンビア戦を例に指摘した。
「みなさんにとっては見直すのも嫌な試合なのかもしれない。しかしあの時の日本代表は信じられないほどナイーブで、相手のペナルティボックスに全員が入り込み、カウンターへの対処がまったくなされていなかった」
 
 監督会見は短いセンテンスで刻み、言葉を重ねるように訳されていくので、正確には聞き取れなかったが、おそらくそういうことを示唆したのだと思う。
 
 試合は常に動いている。だから絶えず修正点を探し、ピッチ上の選手たちに指示を出していく。それが監督の仕事だと言い切る。
 
「前半の守備では、1列目と2列目の間隔が空いていた。一方後半はブロックを少し下げた。これは戦術であり、罠だ。相手に攻めさせてスペースを開け、ボールを奪ったら速く攻める。これで4ゴールを挙げることができた」
 
 シナリオを書き換える大前提として、開始6分に生まれた青山敏弘の美しい先制ゴールがある。大陸内のライバルになるウズベキスタンは、4日前に対戦したチュニジア以上にフィジカルに優れ、日本にも自信を持つ危険な相手だった。前半は早々に失点しながら再三ボックス内に侵入し、日本とほぼ互角の7本のシュートを放っている(日本は8本)。前回のワールドカップ3次予選では、日本のホームゲーム(豊田)で勝利し、グループ首位通過を果たした。後半は前がかりに出る条件が揃っていた。
 
 ところが日本代表を率いる智将は、そこを逆手に取った。54分には右サイドに位置した青山から香川真司を経由して逆サイドのオープンスペースへ走る乾貴士へと流れるように展開。乾の仕掛けは相手DFに引っかかるが、フォローした太田宏介がフリーの岡崎慎司に柔らかいクロスを送り、スピーディで分厚い攻撃を完結させた。
 
 そして80分には、ウズベキスタン側がバイタルエリアで放ったシュートをブロックした瞬間に、日本選手3人が敵陣にフリーで飛び出せる状況が訪れ、最先端の柴崎岳がループで3点目を奪う。罠にはまったウズベキスタンは、まったくカウンターへの準備ができていなかった。

【PHOTOギャラリー】日本5-1ウズベキスタン

次ページ指揮官のタクトは確信に満ち、仕事ぶりは水際立っている。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事