その時、パリSGのロッカールームでは激論が交わされていた――。審判の人種差別発言で試合が打ち切りとなった“歴史的一夜”の舞台裏【現地発】

2020年12月11日 結城麻里

ピッチを去った後に両軍の様子は?

疑惑の第4審判に対し、バシャクシェヒルの選手たちは毅然とした態度を崩さなかった。 (C)Getty Imgaes

 中断したチャンピオンズ・リーグ(CL)パリ・サンジェルマン対バシャクシェヒル戦(8日)の舞台裏が、現地フランス・メディアの取材で徐々に明らかになってきた。

 第4審判による人種差別ととれる発言で試合が混乱した様子は、すでにリアルタイムで世界中に中継されたが、両チームが連帯してピッチを去った後については、映像がないためいまひとつ不明だった。

 実は、パリ側のロッカールームでは、試合再開問題をめぐって高密度の議論が交わされていたという。

 もちろん、人種差別に断固反対する点では、誰もが一致していた。そもそもキリアン・エムバペが「この人(第4審判)と一緒に試合をプレーするわけにはいかない」と主張、次いでプレスネル・キンペンベが「みんな、(ピッチから)出るぞ!」の音頭をとった。ただその後、欧州サッカー連盟(UEFA)の決断が遅れ、しかも判断ミスも重なったため、同夜中に試合を再開するかしないかでは、パリ内部も微妙に意見が分かれたらしい。
 
 UEFAは、問題の第4審判をVARに回すことでお茶を濁そうとした。VARは言ってみれば「審判の審判」。これでは問題が解決するはずもない。バシャクシェヒル側の選手団はさっさと着替えに入っていた。だが、もしUEFAが再開すると決定した場合は、どうするのか――。

 ここで最も強く試合再開に反対したのは、パリSGのイドリサ・ゲイエ、アブドゥ・ディアロ、レーバン・クルザワだった。

 とくにゲイエは、「こんなことをやり過ごすわけにはいかない!」と怒り心頭。元フランス・エスポワール代表キャプテンのディアロも、強烈な行動をとるべきだと主張したらしい。

 またクルザワも、パリ郊外で警官に強制連行された際に死亡したアダマ・トラオレ氏とアメリカで警官の膝に潰されて窒息死させられたジョージ・フロイド氏の両事件に抗議し、6月にパリで人種差別反対デモに参加していた経緯があり、やはり断固たる態度をとるべきと意見した。

 不明瞭なUEFAと怒れる選手たちの間で板挟みになったのは、監督とスタッフだった。

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