「本当に全然違いました」前橋育英“伝統の14番”がまたひとりプロへ! 高校屈指の実力者、櫻井辰徳が神戸を選んだワケ

2020年09月19日 松尾祐希

選手権欠場。櫻井を失意のどん底から救ったのは…

前橋育英のエースナンバー14を背負う櫻井。神戸入りを決めた理由とは…。写真:松尾祐希

 "前橋育英の14番"は特別な番号だ。

 山口素弘(元日本代表)、松田直樹(元日本代表)、青木剛(南葛SC)、青木拓矢(浦和)、小島秀斗(千葉)、鈴木徳真(徳島)。エースナンバーを背負った者の多くがプロの世界に進んだ。そして今年もまたひとり、伝統の14番を身に纏う選手がJクラブ入団内定を勝ち取った。来季からヴィッセル神戸でプレーするMF櫻井辰徳(3年)だ。

 最大の武器は左右の足から繰り出すキックと視野の広さ。中盤の底から長短織り交ぜたパスでゲームを作り、隙あらばミドルシュートでゴールを狙う。攻撃のセンスは一級品で、今年の高体連組ではトップクラスの実力を持つ。

 すでに2年生だった昨年からエースナンバーを背負ったように、将来を嘱望されていた櫻井は、どのような経緯から神戸入りを決めたのだろうか。

 中学時代は埼玉県の東松山ぺレーニアでプレーし、世代別代表とは縁がなかったものの、近隣の同世代選手からは高い評価を得ていた。そのなかで進学した前橋育英では2年次から頭角を現わす。エースナンバーを託された昨夏のインターハイでは初戦で青森山田に敗れたが、初の全国舞台で大きな自信を掴み、その直後にはU-17日本代表に選ばれるなど、確実にステップアップを果たした。

"技術で圧倒できる選手"。ハードワークや球際の強さでは課題を抱えていたが、テクニックで勝負できる喜びを感じながら、冬の選手権へと向かっていった。
 
 9月頃からはスランプに陥ったものの、徐々に本来の姿を取り戻していく。秋の選手権予選では不調が嘘のようなプレーを見せ、チームの優勝に貢献。「2年生で活躍すれば、Jクラブに目を付けてもらえる」と本人が話した通り、並々ならぬ意欲で本大会に向けてモチベーションを上げた。しかし、直前のプリンスリーグ関東で左足首を捻挫。急ピッチのリハビリは功を奏さず、スタンドからチームの初戦敗退を見ることになった。

 予想外の結末。今となっては冷静に選手権の欠場を振り返られるが、当時は何も考えられないぐらいに落ち込んだ。櫻井は言う。

「育英の14番がベンチ外で何もできない。俺、何やっているんだろう。チームが負けた瞬間にそう思いました」

 大会が終わってからもしばらくは気持ちの整理が付かなかった。そんな櫻井を失意のどん底から救う出来事が起こる。それは神戸への練習参加。2月にトレーニングへ向かうと、そこにいたのはアンドレス・イニエスタ、トーマス・フェルマーレンといったまさにワールドクラスのスター選手たち。山口蛍や酒井高徳といった長きに渡って日本代表を支えてきた実力者もおり、高校生からすれば夢のような場所である。そのなかで目を奪われたのが、やはりイニエスタだった。

「イニエスタは単純にボールを失わないし、ワンタッチで試合を決められる。それが本当に凄かった。僕が参加した時、イニエスタが練習試合で3アシストをしたんです。それが全部ワンタッチのスルーパスからでした。自分もそういうパスを出せるようになりたい。純粋にそう思いました。トラップ際を狙っても飛び込めないんです。飛び込んだら交わされるし、本当に全然違いました。上手い選手と一緒にプレーしたい。そういう気持ちはより強くなりましたね」
 

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