【安永聡太郎】久保建英はなぜ中断明けから“王様”になれたのか?「中田英寿以来かもしれない」

2020年08月05日 木之下潤

中断前は完全に仲間の信頼を得ていなかった

シーズン終盤は攻撃の中心としてチームを牽引した久保。(C) Getty Images

 今シーズンの久保については「ただ、ただ、すごい」と驚いてる。

 シーズン当初、マジョルカにレンタル移籍してきたときは「マドリーから来た若者がなんぼのもんじゃい」と、チームメイトからもファンからも懐疑的な目で見られていた。鳴り物入りで移籍してきて、チーム内に不信感や反発感は間違いなくあったはず。その証拠にシーズン当初は、久保のところに素直にボールが出てこなかった。

 それも仕方ない。マジョルカ自体が2部B(実質3部)、2部、そしてプリメーラ(1部)と順を追って昇格してきて、ほとんどの選手がトップリーグ初経験だった。それは久保も同様だったけど、もしシーズン前にしっかりした補強がクラブとして行なわれていれば、メンバーの組み立てが変わるので、最初の頃の彼の孤立は生まれなかったと思う。

 現実には、そういった"うがった見方"をしたいくらい、久保にボールが出てこなかった。
 
 ビセンテ・モレーノ監督は、昇格ごとに積み上げてきたチームの良さを生かし、自分の戦術を理解している選手たちを中心に残留を狙う戦略的な選択をしたということだ。

 しかし、開幕戦こそ勝ったけど、その後は苦しんだ。ただ、それは当たり前。プリメーラ初経験の多い選手で構成されたチームが簡単に勝てるほどスペインのトップリーグは甘くはない。たとえば若手中心で、シーズン終了後にほとんどの選手が買い取られてしまうようなチームなら別だけど、マジョルカはそれなりの年齢の選手が中心だったから。

 その中で新しい血を加えたのが、久保だった。

 シーズン序盤は戦術的に異物が入った感は否めなかった。チームのコマとして機能するのに時間がかかったのは間違いないし、チームの空気感の"間合い"になかなか入ることができなかった。監督のチョイスにはいたけど、モレーノも選手間で完全な信頼感を得てない19歳を主軸に据えてしまうと、下手すると空中分解を引き起こす可能性があったから、冒険はできなかった。
 

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