【J再開後の注目株|長崎】手倉森監督の下で覚醒…「崖っぷち」から蘇ったアタッカーが新エースとなるか

2020年06月04日 藤原裕久

「もうあとがない」…昨季の開幕前は戦力外に近かった

今季開幕戦で先発出場。キレのあるドリブルでチャンスを演出した。(C)J.LEAGUE PHOTOS

 吉岡雅和の特長をひと言で表わすならば、攻撃のオールラウンダーだろう。抜群の運動量、確かな技術を活かした仕掛けや突破、途中出場でもすんなりとゲームに溶け込む適応力……と魅力は多い。チームにひとりいると助かり、監督から重宝されるタイプだ。

 昨季はキャリアハイとなるリーグ戦30試合・4得点、ルヴァンカップ8試合・4得点、天皇杯5試合・1得点を記録した。そんな吉岡が1年前まで、チームで最も戦力外に近かったと誰が思うだろう。

「もうあとがない。最底辺からのスタートだと思っています」

 昨季の開幕前、吉岡は自身の置かれた状況をそう語った。18年シーズンはJ1で出番を得られず、夏に富山へ半年間の期限付き移籍したものの、J3でもリーグ戦出場は3試合のみ。当時、長崎の強化部は、翌年も別チームへのレンタルを検討していたが、条件の合うチームが見つからず、止むなく復帰を決めた。
 
 同じくJ3に期限付き移籍していた同期の畑潤基が、レンタル先の沼津でチーム最多の8ゴールを決めて復帰を勝ち取ったのとはあまりにも対照的だ。「畑は結果を出して復帰したが、お前は結果を出せなかった。覚悟を持ってやらないと駄目だ」とも言われたという。19年シーズンの開幕前時点での吉岡は、限りなく戦力外に近かった。

 吉岡の能力に問題があったのではない。「ボールを止めるなどコントロールする技術は凄い。落ち着いている時はチームでも一番上手いと思う。でもそうじゃない時は全然ダメ」。吉岡と仲の良かった島田譲(現・新潟)が指摘したとおり、課題はメンタル面だった。

 気分屋だとか消極的だったわけではない。生来の素直さの代償とでも言うべきか、吉岡は周囲の影響を受けやすいところがあり、それがプレー面に露骨なほど現われてしまっていたのだ。メンタルが整っていないと判断の遅れやミスが目立ち、一度プレーが乱れれば、容易に立て直すことができない。その精神的な甘さこそが大成を阻んでいた。

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