【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の参 「PK負けに至る必然」

2015年01月29日 小宮良之

またしても敵の力を見誤り、己の力も把握できず。

UAE戦では攻撃の意識が強すぎた長友。右太腿部の負傷は、そのツケを払ったとも言える。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」
 孫子の兵法のひとつである。
 
 この点でアジアカップでの日本代表は、ブラジル・ワールドカップと同じような過ちを犯していた。敵の力を見誤り、己の力も把握できていなかったのである……。
 
 ハビエル・アギーレ監督に率いられた日本代表は、アジアカップのグループリーグで3連勝している。"アジアの盟主たらん"と選手たちは気迫に満ちたプレーを続けていた。準々決勝でUAEにPK戦の末に敗れてベスト8に終わったとはいえ、一概に否定するべきではない。
 
 しかし、その闘争心はどこか空回りしていた。
 
 例えば長友佑都はイラク、ヨルダン戦と不必要なまでに攻撃に関与し、むしろ守備の不安を露呈している。イラク戦は今野泰幸のカバーに助けられたものの、目を覆うようなボールロストがあった。そしてヨルダン戦は少なくとも3度、左サイドを破られていた。敵を併呑する気概ばかり高く、ふらふら前がかりのポジションを取り、自分の持ち場を離れてしまっていたのである。
 
 決定的なのは、UAE戦だろう。長友は立ち上がりから攻撃が本職のような位置を取った。余計な攻撃参加でスペースを潰し、いたずらに体力を消耗。そして延長戦に入ると、そのツケを払う。右太ももの痛みで走れない状況に陥り、チームを10人にしてしまった。
 
「痛みに耐えて頑張ったね」などという見解はトッププロには失礼だろう。敵を、己を、見誤ったのだ。
 
 もっとも、長友が戦犯と断じているのではない。彼は一例であって、負けたのは日本代表というひとつのチームである。
 
 日本はUAEも含め、対戦した相手を大きく上回る力を持っていた。もし敵を自由に引き回す戦いを見せれば、2、3点は簡単に叩き込めたはずだ。攻撃に6~7人と手数をかけていたのは積極性とも言えるが、相手を軽視した攻撃偏重であり、焦りにつながっていた(欧州のトップレベルでは、バルサ以外は3~4人の限定的人数で得点している)。
 
 一方のUAEは自分たちの戦力的非力さをわきまえ、丹念に守備ブロックを作りながら最後まで10番のO・アブドゥラフマンを中心に活路を探った。なにより、彼らは日本をよく研究していた。先制点も、"攻撃偏重の左サイドをカウンターで破られて失点する"というブラジル・ワールドカップからの日本の弱点を突いた形だった。

次ページ余計な重圧を感じ、我を忘れ、プレーが大味になった。

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