ルーキー小野伸二を支えたふたつの金言…アウェー鹿島戦で天才MFは変革の糸口を掴んだ

2020年05月03日 河野 正

開幕戦から先発に入り、好調のチームをリードしたがが…

鬼門だったアウェー鹿島戦で攻撃を牽引。1得点も挙げ、勝利に貢献。(C)SOCCER DIGEST

 バブル景気の終局とともに日本経済は退潮し、Jリーグものっぴきならぬ事態に陥った。大手ゼネコンの佐藤工業が、経営不振により横浜フリューゲルスの運営から手を引き、読売新聞社はヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)の膨らみ続ける赤字を理由に経営から撤退した。

 そんな1998年のリーグ戦の1試合平均入場者は1万1982人と低調だったが、浦和レッズは2万2706人を動員し、ホームの浦和駒場スタジアムは門前市をなす盛況ぶり。衰えぬ集客力の高さはサッカー文化が根付いた土地柄によるものだが、この年は何と言っても奇才・小野伸二の加入が大きかった。

 ジェフユナイテッド市原(現・千葉)とのリーグ開幕戦にトップ下で先発し、柔らかなワンタッチパスを操る威風堂々たるデビュー戦。というより小野はこの1カ月余り前の2月11日、チームに合流してまだ2日目だというのに、市立船橋高との練習試合で既に攻撃の陣頭指揮を執っていた。遠慮なしにボールを要求し、敵の急所を突くスルーパスを次々と供給。広瀬治というプレースキックの名手を差し置き、CKとFKのキッカーを買って出たのだ。

「バインよりいいね」。原博実監督は鼻の下を伸ばし、90年のワールドカップ・イタリア大会を制した西ドイツ代表の名パサーで、浦和にも在籍したウーベ・バインを超越すると真顔で言ったものだ。
 
 観戦した約700人の大半が試合後、サインをねだって鈴なりの人だかりができたが、小野は2時間以上かけて全員の要求に応えた。プレーの妙に加え優れた人柄とあり、すぐに大勢のパトロンがついた。

 開幕戦から先発の陣容に入り、第2節の横浜F戦で初得点。岡野雅行と大柴健二の快足2トップに必殺のスルーパスを繰り出し、5試合で4勝1敗と好調なチームを支えた。

 ところが好事魔多し。第6節と7節では、コンサドーレ札幌と清水エスパルスにいずれも0-2で完敗。「ミスが怖くて消極的になり、リズムを悪くした」と言う小野は、縦パスばかりを狙う単調なプレーに陥り、シュートもこの2試合はなし。原監督は「縦に急ぎ過ぎてFWにくさびが入らない。前でキープできる選手が必要だ」と打開策を思案する。
 

次ページ当時カシマスタジアムでは、93年から7戦全敗

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