震えた大逆転劇、バルサ対パリSGの「6-5」は奇跡か必然か――。スタンドで感じた“雰囲気”【CL回顧録】

2020年04月25日 志水麗鑑(サッカーダイジェスト)

「ひょっとしたら逆転もあるかもしれない」

0-4からの逆転劇というCL史上初の快挙を成し遂げたバルセロナ。はまったときの破壊力は半端ではなかった。(C)Getty Images

 テレビの前で崩れ落ちた。「何をやってんだよ!」と思わず愚痴がこぼれる。

 2017年2月14日、チャンピオンズ・リーグ(CL)決勝トーナメント1回戦のバルセロナ対パリ・サンジェルマンを観戦しようと、まずは第1レグを自宅のテレビで見た。大学卒業旅行の一環で第2レグは生観戦する予定で、チケットは購入済み。絶対に失敗したくないから早期に買い、しかも手配業者を通したから金額は約9万円だった。

 そんな背景もあったので、パリSGがバルサを4-0で粉砕した第1レグを見て、怒りが込み上げてきた。ビッグマッチと目されるカードだからこのゲームをチョイスしただけで、どちらのファンというわけではないが、不甲斐ないバルサに対してパリSGが完勝でほぼ勝負を決してしまい、第2レグは「面白くないだろう」と思ったのだ。アルバイトでこつこつ貯めた9万円が……。まさに水の泡だ。
 
 失意のままバルセロナに飛んだ。第2レグの3月8日になると、スタジアムから離れているのに、市内の中心地で意気揚々と騒いでいるパリSGのファンがちらほらいる。反面、バルサのオフィシャルショップに行くと、優しく声をかけてくれたスタッフに「今夜、試合を見に行く」とつたない英語で伝えると、「さすがに勝つのは無理じゃないか」と言わんばかりの哀れみの目で見てきた。

 パリSGサポーターの盛り上がりはカンプ・ノウに近づくほど色濃くなる。「それはそうだよな」と試合前からパリSGのベスト8進出の確信に同意しつつ、高揚感のないまま会場へ向かったのだが、場内に足を踏み入れると、気持ちは変わった。

 まだキックオフまで相当に時間があるのにチャントが鳴り響き、少なくとも視界の範囲内のすべての席にはバルサの旗が置かれていた。「もしや」という想いがかすかに湧き上がるが、根拠が少なすぎるので「いや勝てないでしょ」と自制する。

 キックオフが近づくほどチャントのボリュームは大きくなり、旗を振る人が増え、それは幻想的な光景だった。特大のコレオグラフィーも掲げられる。コレオの前の席だったので視界を遮られたが、それでも音で雰囲気を感じた。コレオが下ろされ、さあキックオフとなる時には、雰囲気だけを頼りに「ひょっとしたら逆転もあるかもしれない」というマインドに変わっていた。

次ページ耳をつんざくようなブーイングがスタジアムに鳴り響き――。

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