「正直、余裕なんてありません」――吉田麻也の言葉から解くプレミア7年半の“サバイバル”記/後編【現地発】

2020年02月13日 田嶋コウスケ

山あり谷ありの7年半

吉田は、サウサンプトン在籍期間中、相手チームだけでなく味方とも激しい“戦い”を繰り広げた。 (C) Getty Images

「毎年、毎年が生き残りを懸けた勝負。正直、余裕なんてありませんよ」

 吉田麻也がサウサンプトン在籍時、繰り返し口にしていた言葉だ。

 吉田がプレミアリーグで戦った7年半を振り返ると、まさに山あり谷ありだった。

 マウリシオ・ポチェティーノが指揮を執った在籍2シーズン目(13−14シーズン)は、ひたすらベンチ暮らしが続いた。オランダ人のロナルド・クーマン監督が率いた在籍4シーズン目(15−16シーズン)では、不慣れなサイドバックもこなした。

 ポルトガル代表DFジョゼ・フォンテの移籍を機に、在籍5~6シーズン目(16−17、17−18シーズン)にはレギュラーの座を掴んだが、安定軌道に乗ったと思った矢先、監督交代で突如、ベンチに回された時期もあった。

 決して安心することのできない、過酷な7年半の裏には、プレミアリーグ特有とも言える熾烈な競争があった。

 巨額のテレビ放映権が毎年入ってくるプレミアリーグでは、各クラブが潤沢な資金を持つ。そのため、世界中から有力な選手を次々と買い漁ることができ、移籍市場が開く度に大物選手がやってきた。サウサンプトンも例外ではなく、選手の入れ替えはかなり激しかった。その様子は、成功者と脱落者がシーズン毎にハッキリと分かれるサバイバルゲームのようだった。

 吉田の在籍期間中、サウサンプトンではデヤン・ロブレン(現リバプール)、トビー・アルデルワイレルト(現トッテナム)、ジョゼ・フォンテ(現リール)、フィルジル・ファン・ダイク(現リバプール)と、世界屈指のセンターバックが代わる代わるプレーした。

 レギュラーだったCBがビッグクラブに移籍し、日本代表DFのチャンスが広がっても、クラブはすぐに代わりのCBを補強。常に吉田は3~4名の代表クラスのCBとポジションを争った。

 その厳しい競争を勝ち抜くため、吉田は常に向上心を持ち続けた。先発した試合に勝利しても「続けていくことが大事」と、すぐに次を見据えた。

 試合に出てもチームが負けてしまえば「結果を残さないと意味がないんです」と険しい表情を見せ、満足感に浸ることなく、常に前に進もうとした。

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