【天皇杯決勝|戦評】神戸が鹿島相手にほぼ完璧な試合運び。なにより感動を覚えたのは…

2020年01月01日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

神戸の2点目は“西のクロスがすべて”だったか

相変わらず気の利いた動きで中盤をリード。イニエスタは天皇杯決勝でも異彩を放った。写真:徳原隆元

 2020年元日、天皇杯決勝が新国立競技場で行なわれた。ファイナルの舞台に立ったのは神戸と鹿島で、両チームのスターティングメンバ―は以下のとおりだった。

 3-4-2-1システムで戦った神戸は、GKが飯倉大樹、DFはダンクレー、大﨑玲央、トーマス・フェルマーレン。ウイングバックが西大伍と酒井高徳で、ボランチは山口蛍とアンドレス・イニエスタ、シャドーがルーカス・ポドルスキと古橋亨梧、CFは藤本憲明という面子だった。
 
 一方、4-4-2システムで臨んだ鹿島は、GKがクォン・スンテ、DFは永木亮太、ブエノ、犬飼智也、町田浩樹。中盤が三竿健斗、レオ・シルバ、名古新太郎、白崎凌兵で、2トップは伊藤翔とセルジーニョという顔ぶれだった。

 立ち上がりは鹿島の激しいプレスに手を焼いた神戸も、5分を過ぎたあたりから落ち着いてボールを回すようになる。7分にイニエスタが鋭い縦パスを出せば、10分には西の優しい折り返しから古橋がシュート。13分には古橋のドリブル突破から藤本が至近距離から右足を一閃するなど、相手にプレッシャーをかけた。

 攻撃のスイッチ役になっていたのはイニエスタだ。3-4-2-1のボランチというポジションを考えると、「果たしてこのまま後半も持つのだろうか」との疑問が著者の頭をよぎったが、そんなことを他所に神戸が18分に先制。ポドルスキのシュートがGKに弾かれると、そのこぼれ球が相手DFに当たってゴールに吸い込まれた。小細工なしにシュートを打ち込むというポドルスキの積極性が生んだ得点でもあった。
 
 秀逸に映ったのは、神戸の両ウイングバック。西と酒井の位置取りだ。このふたりが下がり過ぎず、ワイドにポジションを取ることで鹿島のマークを分散させて、結果的に中央でプレーするイニエスタらが比較的にボールを受けやすかった。また後方でボールを回すうえで、山口の"顔出し"も効果的だった。すっと3バックのサポートに入り、パスコースを作ってあげる。そうしたフォローが、3バックのプレーに余裕を与えていた。

 神戸の両ウイングバックのそうした位置取りもあって、鹿島は選手間の距離感がいまひとつ。前半に限ればポン、ポン、ポンとパスがつながるようなシーンはほぼ皆無だった。ゴールの匂いを感じさせるのはセットプレーだけ。前半の鹿島はチームとして明らかにまとまりを欠いていた。

 そんな鹿島を横目に、38分、神戸が追加点を奪う。西のクロスに合わせたのは藤本。なにより素晴らしかったのは、西のクロスの質。GKとDFの間を狙ったようなボールで、相手からすれば非常に厄介なものだった。絶妙な位置取りでシュートを決めた藤本のセンスは素晴らしいが、このシーンは"西のクロスがすべて"だったのではないか。実際、藤本はこの2点目を「ラッキー」だったと言っている。
 

次ページチームに抜群の安定感を与えたという点で…

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