客寄せパンダではなく“第4の男”として――リバプールはなぜ南野拓実を獲得したのか?【現地発】

2019年12月24日 松澤浩三

リバプールに精通する敏腕記者からのメール

リバプールへの電撃移籍で世界にその名を知らしめた南野。プレミアでプレーする目標を叶えた。 (C) Getty Images

 長らく親しくしているリバプールの番記者、ジェームズ・ピアース氏からメールがあったのは、今月12日の早朝のことだった。タイトルは「Minamino」。本文には「今日中に話をできる時間はあるか? タクミ・ミナミノについて話を聞きたい」と書かれていた。その瞬間、筆者は南野のリバプール移籍が秒読み段階にあることを確信した。

 15年近くにわたり、リバプールの地元紙『Liverpool Echo』でエース記者として活躍してきたピアース氏はクラブに精通し、リバプールに関する情報量が突出している。今夏には、アメリカのウェブスポーツメディアの新興勢力である『The Athletic』にヘッドハントされたほどの敏腕だ。

 その名物記者は電話でのやりとりでこう言った。「おそらく契約書類はいま、南野サイドにあるはずだ」。そして、筆者にオーストリア・リーグにウインターブレイクがあることを確認したうえで、「となれば、年内最終戦からの2週間でメディカルチェックを行ない、問題がなければ、ミナミノは元旦から正式にリバプールの一員となる」と断言した。

 この時に頭をよぎったのが、以前に耳にしていた南野の話だった。

 遡ることおよそ1年前。2018年12月13日のことである。筆者は、ヨーロッパリーグのグループステージ最終節のセルティック対レッドブル・ザルツブルク戦を取材すべく、グラスゴーに足を運んでいた。

 敵地で2-1と勝利した試合後、先発出場していた南野に「プレミアリーグでプレーしたいという思いはあるか?」とぶつけてみた。すると、本人はこう答えてみせた。

「プレミア、行ってみたいですね。子どもの頃から見ていたリーグの一つでもあるし、トッププレーヤーがプレーするリーグでもある。少し違うけど、セルティックの戦い方とかファンやスタジアムの雰囲気はプレミアリーグっぽいというのも分かっている。そういう意味では、今日はいい経験になった」

 このセルティック戦での南野は、精彩を欠いていた。ボールを求め続けるが、足下に入らず、フラストレーションを募らせていたばかりか、ボールを受けた時も有効な動きができずに、見せ場を作れなかった。

 結局、74分で途中交代。チームメイトとの息が合わず、仲間の信頼を得てないように見受けられたほどだった。本人が「今日はマシなほうだったかも」と苦笑いをしたことが、非常に印象的だったのを覚えている。

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