レベルの高さに自信を無くした合流初日…タイ人初のJリーグ制覇を成し遂げたティーラトンを支えた3人の存在

2019年12月09日 佐々木裕介

ティーラトンの特性を見抜いた“偽サイドバック”への抜擢

FC東京との“優勝決定戦”では貴重な先制点を叩き出したティーラトン。これで一気に形勢を変えた。(C) SOCCER DIGEST

 6万3854人。Jリーグ歴代最多入場者数を更新し、日本列島が注目した横浜決戦。当日朝には雪が舞ったほどの寒い日であったが、スタジアムの熱気は凄まじかった。

 そのスタジアムの外壁には、バスで到着する横浜F・マリノスの選手へ向けた多くの横断幕が張られていた。中にはタイ語のものも。サポーターからDFティーラトンへのメッセージである。

『俺たちはブンちゃんと共に戦う』

 試合は、開始早々から大量得点を奪わなければならないFC東京の気迫を感じるものだった。横浜は前線への楔が入れられずに前へ運べず苦戦を強いられた。しかし26分、試合の方向性を、またシャーレの行方を左右するゴールが生まれる。それは"悪魔の左足"と形容されるティーラトンの左足からだった。

 その後、GK朴一圭の一発退場で数的不利を強いられた横浜を相手に、東京・長谷川監督は策を講じて対抗してみせるが決定力を増すまでには及ばず。FWエリキとFW遠藤渓太の個人技で追加点を奪った横浜が3-0で勝利し、実に15年ぶりとなるリーグタイトルを手にした。

「チームに合流した初日、チームメイトの技術の高さに衝撃を受けて自信をなくしたんです。ここでレギュラーなんて無理かもと。それでも私を信じて使ってくれた監督、俺ってこんなにも走れたのかと思える程の身体づくりに尽力してくださった安野さん、また神戸時代から辛い時期でも勇気づけてくれた原さん、支えてくれた皆に感謝しています」

 試合後の彼のコメントから、今季自らが活躍できた背景には、彼を信じて支え続けた"3人の存在"があったことが分かる。


 一人目はもちろん、アンジェ・ポステコグルー監督だ。独特の戦術でひとつのポイントとなる"偽サイドバック"、アンカーが最終ラインへ落ちて生まれるスペースへ入り込み中央でプレーするSBの特殊な動きだが、ティーラトンの特性を見抜きその"偽SB"へ抜擢したことで、精度の高いフィードや展開力といった彼の良さをより引き立たたせることになった。

 二人目はコンディショニングコーチの安野努。合流早々のキャンプで怪我(左内転筋損傷/全治約3週間の診断で開幕に間に合わず)を負ってしまい心身共に落ちていた彼を、シーズン通して戦える身体に調律した安野の功績は計り知れない。

 そして三人目はヴィッセル神戸時代から彼を知る原正宏(チーム統括本部マネージャー/今季から横浜へ加入)である。2月のJリーグキックオフカンファレンスの際、「日本へ戻ってこられるなんて思いもしなかった」と話していたティーラトンに再起のチャンスを投げた人物だ。彼の英断なくして今季のティーラトンはなかったに違いない。

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