リアル“南葛SC”、成長と勝利の同時追求を掲げた2019年シーズンの軌跡を振り返る

2019年11月29日 伊藤 亮

どうしても欲しかった「練習している攻撃面からの得点」

関東リーグ昇格を目指して戦った今シーズンの南葛SC。昇格は叶わなかったが、徐々に理想とする攻撃の形も見えてきていた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 漫画『キャプテン翼』の原作者、高橋陽一氏が代表を務めるリアル"南葛SC"。その2019年シーズンに沿いながら、当企画ではチームのキーマンにインタビューを続けてきた。

 今回は、そのインタビューで聞かれた言葉を改めて拾いつつ、シーズンを振り返ってみたい。たしかに結果は不本意であったかもしれない。しかし一方で、チームとしての成長、変化も確実に見られた。

 チームは来シーズン以降の躍進を強く心に誓っている。であれば、2019年シーズンに得た経験を前進の糧とすべきだ。前後編にわたる今回の企画。前編では、具体的に試合を取り上げながら成長の過程を追ってみたい。

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 今シーズン指揮を執った福西崇史監督の考えは明確だった。「昨シーズンとは異なるサッカーをしよう」と心がけ、「つないでいくことを共通認識」とした。そのために必要とされる「チームとしてのコンビネーション」。しかし、その構築は一朝一夕でできるものではない。

 見る者に志すサッカーが具体的に見えてきたのは、第7節のTFSC戦(4-1で勝利)の頃からであったと記憶する。ボールを保持して相手がプレスにくるところを、少ないタッチ数でショートパスをつなぎながらいなし、はがす。相手が密集してきたところで主にサイドにできたスペースにボールを展開。それを中央に折り返してフィニッシュに持ち込むというひとつの「型」が見えた。この型からゴールが生まれたわけではないが、試合を通じて同じようなシーンが幾度も見られたことから、チームとしての狙いが感じ取れた。

 この後、試合を重ねるごとにチームの狙いが見えるシーンも時間帯も増えていく。安田晃大キャプテンに話を聞いたのはその頃のことだ。
「やれることが増えたぶん複雑になって要求されるレベルも高くなる中で、チームで合わせるケースが増えた」点に難しさを感じつつ「あとちょっとのところなんですけど」と手応えを感じ始めていた。

 では「あとちょっと」をどうすれば詰められるのか。福西監督は「ポテンシャルを開放するためにも、時間を割いて練習している攻撃面で点を取ってもらいたい」と望んでいた。相手のプレスをはがし、サイドのスペースから中央につないでゴール。おそらく、これがイメージされていた「練習している攻撃面からの得点」であったはずだ。事実、南葛SCが今シーズン作った流れの中でのチャンスシーンを振り返ると、圧倒的にこの形が思い浮かぶ。これは間違いなく成長の証だろう。

 しかし、この形からのファインゴールは、ついにシーズン終了まで生まれることはなかった。完全に相手を崩し、あとは決めるだけ、というところまで迫ったシーンも少なくなかった。だがポストやバーに嫌われたり、かすめたりしてサポーターは幾度となく頭を抱えた。運の部分があったことも否めない。

 それでも"自分たちの形で1点を挙げる"ことが、南葛SCの今シーズンの中でいかに重要だったか。そのたった1点によって、チームとしての自信やモチベーションにどれだけ大きな影響を与えたか。「型」の完成までの「あとちょっと」を詰めるのがどれだけ遠く、困難を伴うものかを痛感させられたシーズンだった。
 

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