隠れた“日韓戦”に“ゼロトップ”の奇策…タイ代表・西野朗監督、W杯アジア予選デビューの一部始終

2019年09月07日 佐々木裕介

泰越ライバル決戦の裏にあった「日韓戦」

W杯アジア予選で初めて指揮を執る西野監督の下、新生タイ代表が船出。初陣はスコアレスドローという結果に。(C) Getty Images

"カタール2022"へ向けた長く険しい道のりを擁する戦いの幕が開いた。アジア2次予選・グループGは、5か国中4か国が東南アジア諸国(ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア)で占拠する顔ぶれに。奇しくもアジアカップ2007を共催した4か国、ASEAN覇権争いを繰り広げるキャスティングは出来過ぎではなかろうか。ドロワーを務めたティム・ケーヒルが仕掛けた悪戯なのか、それとも眼には見えない力が働いたのか。どう疑われても仕方ない程のAFCの構成力には天晴れである。
 
 時季外れにスズキカップが行なわれるようなもの、そして初戦からライバル対決とくれば盛り上がらない訳がない。タイ代表対ベトナム代表戦はチケット完売。開始4時間前に突如振り出した強烈なスコールにもめげず、チャントを歌い合う両国ファンの情熱は凄まじかった。
 
 会場には日本と韓国のメディアの姿もあった。韓国メディアによれば、「韓日監督対決」として国内で盛り上がりをみせているという。"タイ代表監督"西野朗と"ベトナム代表監督"パク・ハンソのマッチアップが、注目の一戦に華を添えた格好だ。
 
 試合開始前、会場に響くスターティングメンバー発表。選手に続き西野新監督の名前が呼ばれた際の熱量は、チャナティップに匹敵するほどに。タイ国民の期待値が計れた瞬間だった。しかしウォーミングアップのピッチに監督の姿はない。開始直前に姿を現わし、ベンチ前で肩を回し、少し深呼吸する姿が見られた。自身初となるワールドカップ予選、経験値高き指揮官でも緊張は隠せなかったのだろう。
 
 新監督の采配が注目を集めていたのは言うまでもない。招集メンバーから推測し4-5-1の布陣を敷き、ホームながら堅守速攻で挑んでくるだろうという筆者の予想は、あっさりと崩された。
 
 発表されたラインナップからタイメディアは4-4-2と公表したが、筆者は"ゼロトップ"布陣と解釈。タイは終始球域を支配し、ピッチを掌握してみせたのである。最前線を主戦場とする選手を置かず、卓越した技術と速さを用いて仕掛けられる"5人のMF"が流動的に動き回り、怪我の影響もあり所属チームでは出場機会の少なかったMFタナブーンが彼等を操る。魅せた"奇策"に度肝を抜かれたのは、パク監督然りだろう。前半の落ち着きのないベンチワークを見ていれば一目瞭然だった。しかし……。
 

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