「戦術を動かすのは選手」――なぜ「バルサ化」は成功しないのか【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2019年07月29日 小宮良之

クライフは「他のクラブではできない」

「バルサ化」を目指す神戸は7月27日に“本家”と対戦。その差は歴然だった。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 世界に冠たるバルセロナは、独特のプレーモデルを持っている。徹底してボールをつなぎ、その技術の高さを頼りに周りが動き、ゴールに迫る。下部組織であるラ・マシアからトップチームまで一貫。そのオートマチズムの高さによって、彼らは強さを誇ってきたのだ。

 そのバルサのトレーニングメソッドは、世界中で研究されている。日本でも、同様だろう。

 しかしながら、同じことを実現させたチームは皆無に等しい。オランダのヨハン・クライフが植え付けたプレーモデルだけに、その本家であるアヤックスが唯一、同等のレベルにあるだろう。他は、できたとしても一過性のものと言える。

「他のチームで、(バルサと)同じことはなかなかできない」

 実はバルサの監督を解任された後、クライフはそう洩らしている。当時、多くの監督オファーを受けているが、すべて断った。バルサのサッカーは、どこでも可能なわけではないからだ。

 バルサのサッカーは、バルサというクラブ規模、下部組織の土台、そして所属選手たちの抜きん出た能力のおかげで成立していた。技術の足りない選手やオートマチズムに適応できない選手がいる状況では、とても成り立たない――。それがクライフの答えだった。

 結局のところ、選手が戦術を動かす。

 例えばJ1リーグ、横浜F・マリノス対ヴィッセル神戸の一戦も典型だった。横浜はアンジェ・ポステコグルー監督が、明確な攻撃戦術を志向。高い位置でボールを持ちながら、手数をかけてリスクを背負い、攻撃を重視したプレーを信条としている。しかし、この日はビルドアップでプレッシングに遭い、ボールをつなげず、苦しい展開。守りの弱さの方が出ていた。

 それが後半、一変している。三好康児、天野純という二人の優れたボールプレーヤーを投入すると、面白いようにボールが回り始めた。そして神戸を翻弄し、4-1で圧勝を収めたのである。

 二人の選手で、まるでプレーが変わった。もっとも、それが最適解かは分からない。
 

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