運命を変えた直訴「シャドーでやりたいです」。森島司をブレイクへ導いた壮絶ドラマ【広島】

2019年07月05日 中野和也

自分のリズムを崩してまで、という気持ちは見えなかった「ツカサイズム」

試合前の森島。その自然な笑顔からはリラックスしている様子が窺える。写真●徳原隆元

 森島司はいつも、笑っている。少なくともそう見える。柏好文のような「燃える男」ではないし、柴﨑晃誠のように徹頭徹尾にクールなわけでもない。どこか、ほんわか。まるでアイドルのような甘いマスクは、ほとんど崩れない。そして彼のサッカーをするその姿は、いつも楽しそうだ。
 
 プレーは鋭く、そして知的だ。浦和戦で何度もサイドを突破したドリブル。ハイネルの得点を演出したスルーパス。湘南戦での広島の2得点はいずれも彼の突破から生まれた。鹿島の守備陣を苦悩させた推進力に加え、ACL第2戦では冷静なポストプレーで佐々木翔の得点をアシスト。単独で突破できるドリブルだけでなくパスも出せるし、攻撃のオーガナイズもやれる。ACLのメルボルン・ビクトリー戦では強烈なドライブシュートを中距離から叩き込み、浦和戦でも良いポジション取りからゲット。得点力もある。
 
 これほどの選手がプロ入り後4年間、どうして台頭してこなかったのか。確かに怪我も多かった。1年目も2年目も、そして昨年も、彼は怪我に悩まされている。去年、森島は藤谷壮(神戸)と一緒に出雲大社を訪れ、怪我をしないようにと祈りを捧げた。地元が三重県鈴鹿市だということもあり、年始には伊勢神宮を訪れてやはり祈っている。それなりに、自分自身のことは考えていた。だが、「今年は勝負の年だ」とオフ返上でトレーニングしたとか、現状打破のために何かをやったとか、そういうことはない。期限付き移籍をして出場機会を求めようかなと思ったこともあったが、「移籍することにビビっていた」という状況。
「とりあえず、広島でやるか」
 
 かつての青山敏弘や柏木陽介のようなギラギラ感はまるでない。同じ東京五輪世代でも、堂安律や板倉滉などからは「上に行くんだ」という迫力が見ているだけでも感じるのに。
 
 森島の台頭を阻んでいたのは、このふわっとした感覚だ。昨年オフ、周りは東京五輪のためにも出場機会を増やした方がいいと、移籍を勧める声が多かった。だが森島は「別に広島にいたかったし」と意に介さない。かといって「絶対に試合に出るんだ」という覚悟を決めたわけでもない。
 
「まあ、いいか」
 
 それが「ツカサイズム」だった。試合に出たいという気持ちは確かにある。サッカーをやりたい。その気持ちは失っていない。しかし、だからといって、シャカリキになることもない。周りから見れば歯がゆいことこの上ないが、自分のリズムを崩してまで、という気持ちは森島から見えなかった。

次ページ思わぬ右ワイド起用。だが、「難しい。自分にはムリや」

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