【総体|埼玉代表】名を捨てて実を取る! 西武台はいかにして全国屈指の激戦区を制したのか

2019年06月24日 河野正

「巧くはなっていないけど、強くはなった」

4年ぶりの夏制覇に歓喜が弾ける。数多の苦難を乗り越えた西武台が「1枠」をモノにした。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 全国高校総体(インターハイ)の埼玉予選は、 "名を捨てて実を取った"西武台が、聖望学園に競り勝って4年ぶり8度目の優勝を飾った。本大会出場は、4年ぶり11度目となる。
 
 初戦の2回戦を除くと苦難の連続だった。昨年度の全国高校選手権代表・浦和南との3回戦、優勝候補の昌平を倒した正智深谷との準々決勝、関東大会予選を制した武南との準決勝はいずれもPK戦勝ちだ。
 
 決勝にしても、前半35分までにエースFW谷直哉(3年)の2得点で優位に立ちながら、後半途中の3分間で2失点して追い付かれてしまう。しかしここからモデルチェンジした西武台が真骨頂を発揮する。守勢に回っていた後半33分、交代出場して間もないFW細田優陽(1年)が、左から運んでマイナスへ最終パス。谷が左足で合わせ、ハットトリック達成となる決勝点を蹴り込んだ。
 
 苦しめば苦しむほど、喜びの表現は派手になる。4分の追加時間が終了しタイムアップの笛が鳴ると、選手も指導陣も跳び上がってガッツポーズを作った。
 
 就任33年目の守屋保監督は「ひっくり返されてもおかしくなかったが、よく耐えてくれた。巧くはなっていないけど、強くはなったと思う」と語り、チームスローガンを忠実に遂行した選手を褒めた。

 
 4月の関東大会予選準決勝では谷がPKを3度外したことも響き、浦和東に1-2で敗れた。ここからこの時期としては異例の走り込みを敢行し、走力と体力と気力を染み込ませた。主将のDF佐野彗至(3年)は「半端なく走ったことで、終盤でも力を出し切れました。特に守備面では粘り強さが出た」と胸を張る。精神力の強さは、3戦続いたPK戦をモノにしたことでも分かる。
 
 敵将・山本昌輝監督は「うちのリズムだったあの時間帯に、少ない好機を決めるのだから勝負強い」と脱帽した。今年から埼玉のインターハイ出場枠が1校に減ったが、そんな激戦区を粘り強さで勝ち取ったのだ。
 
 西武台の伝統的な攻撃手法は、3トップによる外からの速い展開。昨季なら大塚悠平、若谷拓海という名うてのMFが敵の急所を突くパスを通わせたが、今季はそんな人材が見当たらない。そこで守屋監督は「繋ぐ戦術は無理そうだから、ひたむきにボールを追い掛ける戦い方に転換し、巧くなるより強くなろうと呼び掛けました」と、この2か月間でのチーム改革を説明した。
 
 長短のパスと鋭いくさび、軽やかなパス交換にチェンジサイドからのスピード豊かな攻め──。こんなサッカーを志向し、実践してきた西武台が体裁をかなぐり捨ててまで結果にこだわり、栄冠を手繰り寄せた。

次ページ彷彿させるのは躍進を遂げた「24年前のチーム」

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事