【小宮良之の日本サッカー兵法書】 ケイン、スアレス、ビジャ…点取り屋が持つ共通の「戦術センス」

2019年03月17日 小宮良之

戦術的に優れているとは?

ボールをどう動かすかということと同様に、人がどう動くかがこの競技の重要なファクターである。その点で、ケインは秀逸なものを見せた。 (C) Getty Images

 サッカーは大局を動かす戦略と、局面を左右する戦術によって成り立っている。
 
 戦略を動かすには、クラブフロント、さらには現場のリーダーである監督の力が大きく物を言う。戦いの道筋を、どれだけ明確にできるか。いわゆる、プレースタイル、プレーモデルだ。
 
 一方、戦術は各場面のプレー判断と言えるだろうか。それゆえ、各選手のセンスが肝心となる。刻々と変化していく状況のなかで、適切な選択ができるか。これは、「個の力」とも置き換えられるかもしれない。
 
 戦略が成熟していなくても、チームが勝利することはしばしばあるが、それは戦術が一気に天秤を傾けるからだろう。
 
 では、戦術的に優れている、とはいかなることなのか?
 
 3月5日(現地時間)に行なわれたチャンピオンズ・リーグのラウンド・オブ16・第2レグ、トッテナムはホームのボルシア・ドルトムントに押されている状況だった。
 
 この劣勢でどうにかチームを支えたのは、ビッグセーブを披露したGKユーゴ・ロリスという個人だった。神懸かったゴールキーピングで、崩された場面でもどうにか耐えている。ロリスは、ひとつの「戦術」だった。
 
 そしてもうひとり、直接的に試合を決めたのが、イングランド代表ストライカーであるハリー・ケインだ。
 
 後半、戦局は悪かった。1点でも失えば、一気にホームチームに流れを持って行かれる気配も漂っていた。トッテナムには、この流れに杭を打つ必要があった。
 
 49分、クリスティアン・エリクソンがボールを持った瞬間、ケインはオフサイドぎりぎりでラインの裏に飛び出したが、このパスはあえなく相手にブロックされた。
 
 その直後、再び味方のムサ・シソコが拾った時、ケインは一瞬、背後に視線を送っている。目の前でラインの駆け引きしていたDFとの位置関係では、ケインはオフサイドだったが、遠い位置で別のDFが下がっているのが見えたのだ。
 
 それで彼は、足下にボールを呼び込み、これを完璧にコントロールして鮮やかにフィニッシュしてみせた。

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