【小宮良之の日本サッカー兵法書】 “段階的”な強化など不可能! 全て“同時”に推し進めるべきだ

2019年02月17日 小宮良之

「まずは堅守」「次は攻撃」はありえない

ペップは「ボールゲーム」を基本に、全ての状況に対応する。それに合った選手を揃え、攻守両面で同時に強化を進めている。 (C) Getty Images

「堅守+攻撃サッカー」
 
 しばしば、この手のスローガンやメディア評価を目にする。守りを固めることができたから、次はより攻撃的に!――そうした強化の発想だろうか。
 
 しかし残念ながら、実現できる可能性は乏しい。
 
 サッカーは、大きな意味でのアイデアとビジョン、そして緻密で詳細なトレーニングによって成り立っている。
 
 例えば、人海戦術で守り通し、カウンター一発、もしくはセットプレーで勝ちを拾っていたチームが、都合良く、「攻撃サッカーを採り入れる」というのは理論上、あり得ない。
 
 固く守って成功していたのは、それに合ったプレーを得意とする選手がいたからこそ可能だった。その選手たちに、「次は少し攻撃に」と伝えても、笛吹けど踊らない。ボリュームのようにひねって調整するものではないのだ。
 
 たとえ、そのチームに攻撃的で技術のある選手を補強したとしても、不具合は起きる。それは、水と油のように混ざらない。多くの場合、全体のバランスは失われる。結果、立ち戻るプレーモデルさえもなくしてしまうのだ。
 
 サッカーという競技は、守備の次に攻撃、と段階を踏むものではない。攻撃している時には、必ず守備の準備が必要で、守備をしている時には同じく、必ず攻撃の準備が必要になる。
 
 準備とは、ポジショニングであったり、サポートの角度であったり、心理的な面もそのひとつだろう。そのクオリティーを、毎日のトレーニングのなかで高めていく――。それが、強化の本質だ。
 
 サッカーは他の競技以上に、止まらずに流れる動きのなか、コンビネーションの練度の高さがアドバンテージを生む。それは攻撃でも、守備でも、同じことが言える。あうんの呼吸があれば、相手の先手を取れるし、後手に回らない。補完関係を築くことによって、優位を保てるのだ。
 
 優れた指導者は、その精度をトレーニングによって高められる。それは、「まずは堅守」であるとか「次は攻撃」であるとか、あるいはその逆でもない。順序ではないのだ。

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