【現地発】乾貴士と同期入団のMF、ベティス監督がその才能に惚れ込んだのは10歳のときだった

2018年12月30日 エル・パイス紙

早熟の天才がついにその才能を全開に。

マドリーやバレンシアなどでは持ち味を発揮できなかったカナレスだが、キケ・セティエン監督のベティスで輝きを取り戻した。 (C)Getty Images

 開幕以来、ベティスの攻撃サッカーの重要な一翼を担っているのが、セルヒオ・カナレスだ。カナレスは今夏、レアル・ソシエダからフリーで加入した。契約期間は5年で、しかも選手側に有利な条件でのインセンティブ付きだ。

 契約の際にベティスの関係者がもっとも懸念したのが、バレンシアでプレーしていた2011-12シーズンに2回、そしてR・ソシエダ在籍時の2015年12月と、キャリアの中で3度にわたって膝の前十字靭帯を損傷した故障歴だ。

 そのためクラブのテクニカルスタッフは昨シーズン、カナレスが出場したすべての試合を視察。最終的にスポーツ部門副会長のロレンソ・セラ・フェレールと、カナレスと同郷(サンタンデール出身)で、この左利きのテクニシャンがまだ10歳の頃からそのプレーに注目していたというキケ・セティエン監督のゴーサインが決め手となり、獲得に踏み切った。

 両首脳の期待に応え、カナレスはここまですべてのコンペティションを通して22試合に出場(スタメンは19試合)。日々のコンディショニングを担当するトップチームのフィジカル・コーチ、マルコス・アルバレスがまず驚くのが自分に対する厳しい姿勢だという。

「セルヒオは高いプロ意識の持ち主だ。とにかく練習熱心で、こちらからストップをかけなければいけない時もあるくらいさ。いま27歳。これから心身ともにピークを迎える年齢だ。デビューが17歳と早かったことから、ベテランのように見られがちだけど、彼はまだまだ若いんだ」
 
 一方、プレースタイルにおいてアルバレス・コーチが着目するのは、ドリブラーとしての高い資質だ。「ドリブルスピードがズバ抜けている。ボールをキープしながらあれほど速く走るのは至難の業だ。シュートにパンチがあるし、ゲームビジョンにも優れている」

 カナレスは、セティエン監督がピッチ上で自由に動く特権を与えているアタッカーのひとりだ。最終ラインから丁寧にビルドアップするベティスの対戦相手にとって、前線からのハイプレスは常套手段となっているが、その中でカナレスは持ち前のドリブルで相手のプレッシャーをかいくぐり、敵陣にボールを運ぶ不可欠な役割を担っている。

 ラ・リーガ第16節のエスパニョール戦(ベティスが3-1で勝利)で、ジオバニ・ロ・チェルソの同点ゴールを演出した長い距離をトップスピードで駆け抜けたドリブルは、そんなカナレスの真骨頂とも言えるプレーだった。

 セティエンとカナレスはフットボール観に加え、現在2部Bに低迷している古巣ラシン・サンタンデールへの愛情の深さという点でも思いを共にしている。2015年、当時深刻な資金難に喘いでいた故郷のクラブの惨状を憂えたセティエンの呼びかけに対し、カナレスが快く2万5000ユーロ(約325万円)を寄付したこともあった。

 早熟の天才カナレスはデビューから10年の歳月を経て、同郷の指導者の下、ついにその才能を全開させようとしている。

文●ラファエル・ピネダ(エル・パイス紙/アンダルシア地方のクラブの担当記者)
翻訳:下村正幸
※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。
 
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