自分のパスから親友が事故死…十字架を背負う元クロアチア代表守護神の壮絶な想い

2018年12月21日 ワールドサッカーダイジェスト編集部

ゴールキックから不幸な事故に繋がる。

スバシッチ(右)のアンダーシャツには、亡き親友の写真と「FOREVER」の文字が入っている。(C)Getty Images

「永遠なれ。僕の天使よ、お前は今どこにいる」
 
 ダニエル・スバシッチが試合中に着用するアンダーシャツには、亡きフルボイェ・チュスティッチの顔写真と彼へのメッセージがプリントされている。故郷ザダールに戻るたびに旧友の墓参りとアンダーシャツの調達を欠かさない。
 
「彼のシャツはキャリアの最後まで着用するつもりだ」
 
 スバシッチを悲しみのどん底に突き落とした事故は、ザダールに所属していた10年前に遡る。2008年3月29日、国内リーグのチバリア戦の前半4分だった。スバシッチが蹴ったゴールキックのボールを追いかけたFWチュスティッチが、サイドライン際で相手選手と交錯。勢い余ってピッチ外に飛び出し、後頭部をコンクリートの壁に打ち付けてしまう。すぐに病院に運ばれたが、脳挫傷で5日後に他界。享年24歳だった。
 
 チュスティッチとはユース時代から兄弟同然の間柄だったスバシッチは、罪悪感にかられた。チーム内の約束では、ゴールキックをもう一人のFWに向けて蹴ることになっていた。しかし、「ブラザーよ、俺のほうにも蹴ってくれよ」という親友の頼みに応えて蹴ったボールが、不幸な事故に繋がったのだ。心に残る十字架となった。
 
 「悪夢にうなされ、眠れなくなると彼が脳裏に出てくる。そして、こう考え込んでしまうんだ。あのボールを彼に向けて蹴らなかったら、不幸な事故は起こらなかったかもしれない、と。なぜあんな運命が導かれてしまったのだろうか?」
 
 ロシア・ワールドカップのデンマーク戦(ラウンド・オブ16)でスバシッチは、PK戦で3本をストップ。すかさずアンダーシャツ姿になり、亡きチュスティッチに勝利を捧げた。
 
 明るい性格で、クロアチア代表では一二を争うムードメイカーだったスバシッチだが、試合後の記者会見で事情を知らない外国人記者からアンダーシャツについて問われた途端、言葉に詰まって大粒の涙を流した。

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