エムバペはなぜ速い? Jリーガーやプロ野球選手を指導するプロスプリントコーチが徹底解説!

2018年10月18日 ワールドサッカーダイジェスト編集部

回転が速いうえに踏み出す一歩の歩幅が広い。

「くの字」ではなく、姿勢が真っすぐであることも速く走るためには重要な要素だと秋本氏は解説する。 (C)Getty Images

 パリ・サンジェルマンに所属するフランス代表FW、キリアン・エムバペの最大の持ち味は、圧倒的なスピードだ。では、他のフットボーラーと何が違うのか。これまで数多くのJリーガーやプロ野球選手を指導してきたプロスプリントコーチの秋本真吾氏に、速さの秘訣を解説してもらった。

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POINT①
■回転が速いうえに歩幅が広い
 走り方には絶対的な理論が存在します。スピードは、ピッチとストライドの掛け算になっています。脚の回転を速くして、その回転の速さを維持したうえで一歩の歩幅を広げていく作業ができれば、必然的にスピードは上がります。

 この理論を当てはめたうえで見ていくと、脚の速いサッカー選手はそのいずれか、あるいは両方が間違いなく優れています。サッカー選手に多いのは、どちらかと言うと回転が速いタイプです。ボールが絡むうえアジリティー要素も強いので、急速にグンと回転させてスピードを出している選手が、割合的には多いという印象です。

 それに対してエムバペは――ロナウド(ユベントス)やオーバメヤン(アーセナル)、ベイル(R・マドリー)もそうですが——、回転も速いですが一歩で進む歩幅が広い。ぐんぐん前に進んでいくイメージがあるのは、ストライドが広いから。それがあの推進力に繋がっています。

POINT②
■姿勢が素晴らしい
 回転と歩幅、この2つの要素を高いレベルで成立させる第一ベースは、走る時の姿勢だと僕は思っています。陥りがちなのが、「速く走る=身体を前に倒す」になってしまうこと。トップレベルのJリーガーやプロ野球選手にも多く見られる傾向です。

 ボールが前に転がり、ゴールも目前。早く行こう。そう焦って思わず前かがみに、いわゆる「くの字」になると、絶対に速くは走れません。身体を前に倒すと、脚の軌道は身体の後方で回転してしまいますから。運動会でお父さんが転ぶ理論と同じです。この姿勢で強引に脚を前に出そうとすると、太ももの裏の怪我にもつながります。

 大事なのは「くの字」ではなく、姿勢が真っすぐであること。要するに正しい前傾が、とても重要です。(ワールドカップの)アルゼンチン戦で見せたエムバペのあの独走は、まっすぐの姿勢でスタートしています。ロナウドもそうですが、彼らは「くの字」で走っている印象がまるでありません。まっすぐの姿勢のほうが、確実に地面に力が伝わります。

 例えば地面に置いた缶を踏むとき、身体を曲げた状態よりも背筋を伸ばしたほうが力が入りますよね。それと一緒です。回転と歩幅を成立させる姿勢そもそもが、エムバペは素晴らしいです。

POINT③
■アキレス腱を巧く使えている
 足のどの部分で接地しているかも重要なポイントです。要は、着地の時に踵が離れているかどうか。例えば縄跳びをする時は、踵が地面に着地する瞬間がないのでアキレス腱が伸縮して、縦のジャンプが連続してできます。大事なのはこのアキレス腱で、ふくらはぎの腓腹筋やヒラメ筋と呼ばれる筋肉が一気に収縮することで、腱が伸ばされて身体がバネのように弾みます。踵だけでジャンプしてみてくださいと言われても、できませんよね。

 この腱を使う動きは、僕ら陸上選手は当たり前のようにやってきたことですが、サッカー選手にはあまりない感覚のようです。踵から着地したり、足の裏全体で着地して腱の反射を使わずに筋肉の力だけで走ったりしている選手が、実はすごく多い。

 Jリーガーやプロ野球選手を指導していて常識を覆されたのは、それでも速い選手がいること。ただこれは、怪我にも繋がってきます。筋肉へのストレスが尋常ではないからです。なので、ある程度は速く走れていても(キャリアを)長く続けられないリスクがある。伸びしろがすごいとも言えますが。

 その点、エムバペは踵をつかない走りができています。彼はドリブルするときも踵をつけていないんです。要するにドリブルと素走りの差がない。速い選手は、このように腱を上手に使えています。

次ページドリブルと素走りの差がない。

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