サッカー界の「ファーストペンギン」――本田圭佑の新たな挑戦には"裏ミッション"があるのかもしれない

2018年08月16日 吉田治良

サッカー選手とはこうあるべきだという常識を、恐れずに次々と打ち破る

15日にメルボルン・Vの加入会見を開いた本田は、新たな挑戦への意欲を熱く語った。(C)Getty Images

 プロフェッショナル「ケイスケ・ホンダ」の発想は突拍子もなくて、私のような凡人の想像の斜め上どころか、高度1万メートル上空を行く。
 
 オーストラリアの強豪メルボルン・ヴィクトリーへの移籍を発表したばかりの本田圭佑が、間髪入れずにカンボジア代表チームの"実質的な"監督に就任した。
 
 指導者ライセンスを持たず、なにより現役のプレーヤーであるため、肩書は「Head of delegation」、つまりはゼネラルマネジャーだが、チーム強化の全権を握り、国際Aマッチでは実際にベンチにも入るという(登録上の監督はアルゼンチン人のフェリックス・アウグスティン・ゴンザレス・ダルマス)。
 
 世界的にも極めて異例の挑戦だろう。
 かつて"リベリアの怪人"ことジョージ・ウェアが、選手兼監督として自国の代表チームを取り仕切ったケースはあったが、それとも一線を画す。
 
 ふと頭に思い浮かんだのは、「ファーストペンギン」という言葉だ。
 新しい狩場を得るために、危険を顧みずに率先して海に飛び込む、勇気あるペンギン──。
 転じてビジネスの世界でも、新しい業界や投資にチャレンジし、先行者利益を得ることを──もちろんリスクも大きいのだが──ファーストペンギンと呼ぶようになった。
 
 本田は、まさしくサッカー界のファーストペンギンだろう。
 
 現役のプレーヤーでありながら、アジア最大規模のサッカースクールを展開し、オーストリアのSVホルンなど複数のクラブチームの運営にも携わる(カンボジアのソルティーロ・アンコールFCの実質的なオーナーでもある)。さらに最近ではハリウッドスターのウィル・スミスとともに、ベンチャーファンド『ドリーマーズ・ファンド』を設立するなど、ビジネスマンとしての活動に精力的だ。
 
 サッカー選手とはこうあるべきだという常識を、恐れずに次々と打ち破る。そんな本田を色眼鏡で見る向きは少なくない。
 
「もうサッカーへの情熱を失ってしまったのか」
「サッカーとビジネス、どちらが本業か分からない」
「引退後の生活を思い描きながらボールを蹴っている」
 
 今回のチャレンジに関しても、「片手間で務まるほど監督業は甘くない」、「(オーストラリアの)Aリーグを舐めている」などと、おそらくは否定的な意見が多数派を占めるのだろう。
 

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