新生ガンバで指揮官ツネが明快にしたかった色──それが秘蔵っ子の“ヤン”だった

2018年07月29日 川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

J1采配デビュー戦で、宮本新監督は賭けに出た

ガンバ入団から1年半。高にとって明るい展望を描けなかった日々は、恩師の新監督就任によって一変した。写真:川本学

[J1リーグ・18節]G大阪1-1鹿島/7月28日/吹田S
 
 指揮官・宮本恒靖は、勝負師である。J1の采配デビュー戦で、それが鮮明に描き出された。
 
 センターバックだった現役時代は、局面局面での最適解を迅速に導き出し、周囲を巧みに使いながらクレバーにピンチの芽を摘み取った。時折、機を見て攻撃参加は仕掛けても、リスキーなプレーはほぼない。それがガンバ大阪のアイコンの、日本代表主将の真骨頂だった。
 
 ところがどうだ。ツネ新監督は自身の初陣で誰もがあっと驚く賭けに出た。J1でのプレー経験がない20歳のボランチをスタメンに抜擢登用したのである。ずっと成長を見守ってきた秘蔵っ子だ。起用に自信はあっただろうが、さすがに確信はなかっただろう。
 
 それでも、宮本監督は入団2年目の高宇洋(こう・たかひろ)にこだわったのだ。先発させたい特大の動機があった。なぜなら志向する新たな戦術をもっとも深く理解し、ピッチ上で体現できるキーパーソンだったから。結果がどうなるにせよ、新指揮官はJ1采配デビュー戦でその"色"を明快にしたかったのである。

 
 少しほっとしたような表情を浮かべながら、宮本監督は高を抜擢した理由を明かし、そのプレーぶりを以下のように評した。
 
「シーズン前半戦を観ていて改善の必要性を感じていたのが、中盤の守備。高の強みであるその部分を大いに期待して、役割を与えました。J1での試合が初めてとはいえ、しっかりやってくれるんじゃないかと。ゲーム序盤はさすがに緊張が見えましたけど、後半は尻上がりに良くなっていきましたね。守備では得意のかすめ取るような動きができていたし、攻撃の面でもどんどん良くなった。十分期待に応えてくれたと思います」
 
 20歳とは思えない高度な戦術眼と、重圧をものともしない鋼の精神力。宮本監督は愛弟子のポテンシャルに賭けたのだ。
 
 高は中国人と日本人のハーフである。お父さんは元中国代表MFの高升(こう・しょう)さんで、日本では富士通(現・川崎フロンターレ)などでプレー。引退後に指導者の道を歩み、母国プロクラブでコーチや監督を歴任している。フロンターレの下部組織で父子は、指導者と選手の間柄だった。息子の中国語読みは"ヤン"で、その頃から現在に至るまで高のニックネームである。
 
 川崎U-18に昇格もできたヤンだが、進路先に選んだのは高校サッカー界の名門・市立船橋高校だった。高校選手権への熱き想いと、プレーヤーとしてよりタフに戦い抜くメンタリティーを鍛え上げたかったからだ。ここで、すべてが変わる。攻撃的MFだった天才肌は、泥臭さとハードワークも売りのオールマイティーなフットボーラーへと進化を遂げるのである。
 

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