【現地発】幸運だけに頼り続けた名門クラブの55年目の転落…ハンブルクの険しき前途と小さな希望

2018年05月16日 中野吉之伴

根本的な変革に本気で取り組まず…

昨シーズンは最終節で喜びと安堵の涙を流したが……。根本的な見直しを怠った代償を今シーズン、ハンブルクは支払うこととなった。スタジアムにある1部での時間を表わす時計の針が動き出すのは、いつになるだろうか。 (C) Getty Images

 ブンデスリーガが創設されてから19985日、ついにこの時が訪れた。
 
 オリジナルメンバーでは唯一、2部リーグに降格をしたことがなかったハンブルクが力尽きた。最終節ボルシアMG戦こそ2-1で勝利したものの、他会場で残留を争っていたヴォルフスブルクがケルンを4-1で下したため、順位の逆転はならず、17位での自動降格が確定したのだ。

 それを知った一部の狂信的なファンが、暴徒と化してしまった。試合終了間際、黒煙がホーム、フォルクスパルクのゴール裏を襲い、ピッチには多くの警官隊とスタッフが列を作って待機。非常態勢に選手はいったん、控室へ戻らざるを得なかった。
 
 15分後、騒ぎが落ち着いてきたのを確認すると、主審のフェリックス・ブリヒは警官隊らにピッチの外へ移動してもらい、試合を再開。そして、その5秒後に運命の笛を吹いた。
 
 選手は崩れ落ち、その目から涙が流れる。だが、認めたくはなくとも、これが現実なのだ。
 
 突然訪れた悲劇というわけではない。直近5シーズンで4度目の残留争い……。これまでは、ぎりぎりのところまで追い込まれながら、最後の最後で辛うじて生き残ってきた。
 
 今シーズンも、終盤になって必死の追い上げを見せた。攻撃的で気持ちのこもったプレーで勝ち点も積み重ねた。だが……残念ながら、いつでも女神が微笑んでくれるわけではなかった。
 
 転落はいつから始まったのだろう。
 
 2008—09、09-10シーズンと、このクラブは2年連続でヨーロッパリーグの準決勝まで勝ち進んでいる。有名な選手も、たくさんいた。
 
 だが、決して経営状態が芳しくない台所事情なのに、毎年のように高額な移籍金で選手を補強しようとする。当然、負債額は膨ら見続ける一方。だが、首脳陣は危機感を抱きながらも、困った時にお金を出してくれる大富豪ミヒャエル・キューネの存在に甘え、根本的な変革に本気で取り組むことはなかった。
 
 果たして、自分たちが転げ落ちているという自覚が、首脳陣たちには本当にあったのだろうか。
 
 この8年間で代表取締役が5人、SDが5人も変わった。誰もが、口では壮大な物語を叙述する。「我々は偉大なクラブだ」「またトップに返り咲くのだ」と。だが、誰も現状を明瞭に分析できず、クラブに必要な目標と目的を見つけて、そのための手段を講じることがなかった。
 
 首脳陣の迷走は、監督人事に一番表われている。この8年間で実に10人――アルミン・フェー、ミヒャエル・エニンク、トルステン・フィンク、ベルト・ファン・マルバイク、ミルコ・スロムカ、ヨゼフ・ツィンバウアー、ブルーノ・ラッバディア、マルクス・ギスドル、ベルント・ホラーバッハ、そして現監督のクリスティアン・ティッツ……。
 
 みんな短命だ。どんなサッカーがしたいのか。どんなクラブでありたいのか。積み重ねもなく、ハンブルクは方向性を見失ったままだった。
 
 クラブの象徴である元ドイツ代表FWのウーベ・ゼーラーは、「(選手を)売買をするのはいい。だが、こんなにしょっちゅうやっていてはだめだ。いつまでも、幸運だけに頼っていてはならない」と嘆いていたが、結局、そうした悪循環に歯止めをかけることはできなかった。

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